第35話 ドラゴン討伐戦線


「魔鉱砲を一列に並べてください!」



城下町とスラムの境目。

その場所で土魔法使いによって作られた即席の高台。

そこにサンプルとして取り寄せた魔鉱砲を先頭に、それを参考に複製された計10台の魔鉱砲が縦一列に並べられていた。



「姫様! 準備完了しました!」


「ありがとう。さて、ここからが大変ね……」



レオノーラはワンドを取り出し、魔鉱砲の連結部に魔法陣を刻み始める。



「レオノーラ、それは……?」


「連結部の補強兼、魔力の通り道」


「???」


「魔鉱砲を連結して魔法の威力を上げよう、という訳。

でも本来は連結して使う物では無いから、連結部の補強とスムーズに次の魔鉱砲に魔力を流す為の魔法陣を刻み込んでいるの」


「はぇ〜……」


「ですが姫様……それは些か危険なのでは……?」


「えっ!? おっちゃん、コレ危険なのか!?」



リアは驚いた様子で魔鉱砲の研究者である中年男性に食い付いた。



「えぇ。魔法陣の構築を間違えば増幅した魔力が術者に跳ね返りかねません」


「レオノーラ……!」


「それでも、これがヴェールバルドを救う唯一の道筋なのよ」


「他にも適任は居るんじゃないのか!?

レオノーラは魔法使い100選なんだろ? ならもっと優秀な奴が……」


「残念だけど、コレに関しては私が適任なの。ヴェールバルドで一番総魔力量が多いのは私だから」


「……そうなのか?」


「そもそも魔法使い100選がどういう基準で選ばれるか知ってる?

実績や研究結果等の総合的な要素で選ばれるの。

大学の研究レポートを発表した学生がランクインするのも良くある話。

そんな中で私は公務があるから実験や研究は出来ない……純粋な魔力量のみで選ばれている唯一の魔法使いがこの私なのよ」



王族というのもあるでしょうけどね、とレオノーラは付け加える。



「だから、私がやるしかないの」


「……大丈夫なのか?」


「不安要素は幾つもあるけどね。

恐らく魔鉱砲が魔法の威力に耐え切れないでしょうからチャンスは一度きり。

全ての魔法陣を構築し終える前にドラゴンが到達、ないしブレスの射程圏内に入っても駄目」


「ど、どうすれば良い……!?」


「耐久力に関してはどうしようも無いわ。

時間稼ぎは騎士団の人達が頑張ってくれている。やれる事をやるしか無いわ」


「時間は間に合いそうなのか?」


「……このままだと足りないかも」


「ぐうぅ……っ!」



レオノーラの焦った表情にリアは頭を掻き毟る。

騎士団もよくやってはいるが、如何せん魔物の数が多過ぎる。

このままではジリジリと押し潰されるのは目に見えている。

レオノーラが安全性よりスピードの優先を検討し始めた……その瞬間。

前線に新たな鬨の声が上がった。



「何事っ!?」


「あれは……!」



リアは彼等をよく知っていた。勿論レオノーラも。

騎士団よりも遥かに数が多く、しかし武器は石や木材など貧弱な物だ。

いきなり降って湧いたように現れた彼等は……



「スラムの……鉱夫達だ!アイツ等が戦ってる!!」


「そんな!? 彼等は大した装備も戦闘訓練も受けていないでしょう!? すぐに避難させて……」


「レオノーラっ!」


「……っ!?」



レオノーラはリアに両肩を掴まれ、その目を真っ直ぐに見つめられる。



「アイツ等が命懸けで戦うなんてちょっと前までは考えられなかった。

そんなアイツ等が、それでも戦ってんだ!

レオノーラも、レオノーラが与えてくれた居場所も……アイツ等にとっちゃそれが命より大切なんだ!

アイツ等にも大切な物を守る為の戦いに参加させてやってくれよ……!」


「……っ、分かった。彼等を信じるわ……!」



レオノーラが覚悟の籠った目でリアに返す。



「……ん?」


「? どうしたの?」



リアの惚けた声に釣られて戦場に目を向ける。

魔物の軍勢の一角が……ほんの少しではあるが抉れていた。

その近くから紫色の閃光が天に向かって伸びる。



「あれはメイド長のみが使えるメイド隊召集の合図、ね」


「……つまりあそこに?」


「えぇ、ミルラが居るわ!」



今まで調査の為に姿を眩ませていたミルラ。

この場で大々的に存在を明かしたという事は既に何か掴んだか、若しくは緊急事態故にやむ終えず、か。



(恐らく後者でしょうね……)



任務よりも人命を優先するその姿勢に思わず笑みが滾れる。



「姫様」


「ラピズ……」



背後にはラピズを始めとしたメイド隊がずらりと勢揃い。



「メイド長より召集が掛かりました」


「行ってらっしゃい」


「はっ!」


「俺は……」


「貴女の任務は姫様の護衛。残りなさい」


「……分かった」


「では、失礼致します。姫様」



メイド隊を先導し、戦場に向かうラピズ。

レオノーラはその姿を見送りつつ、リアが悔しそうに己を見ている事に気付いた。



「レオノーラ、本当に俺に出来る事は何も無いのか? 他に不安要素は……」


「強いて言うなら……対竜魔法は使えないわね。

配下の魔物も纏めて倒す必要があるから広域殲滅魔法を使うわ」


「それが不安なのか?」


「範囲が広い分、威力は低いの。それでドラゴンを倒せるかどうか……」


「どうすれば威力が上がる?」


「え? 魔鉱砲に込める魔鉱石が多くなればその分威力は上がるけど……」


「探してくるっ!」


「あ、リア! ……もう、魔鉱石なんてそこら辺に転がっている物では無いなんてリアも分かっているでしょうに」



それでも、とレオノーラは思う。

リアのあの直向きで一生懸命な献身に何時も自分は救われているのだと。



「私ももっと頑張らなきゃね」



魔法陣を刻むその手に、更に力が籠った。

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