第29話 魔物と魔鉱石
「鉱山の一部を封鎖。これをAルートと称します。
今後暫く、皆さんは残ったBルートの採掘をお願いします。
人数は変わらないので、一人あたりの負担は減る筈です。
いきなりの事で申し訳ありませんが、どうか宜しくお願いします」
スラムの鉱山。
王城から一番近い第一鉱山にて、レオノーラは鉱夫達に頭を下げる。
「いや、頭ぁ上げて下さいよ」
この鉱山の鉱夫のリーダー的存在であるハースが慌ててレオノーラを止める。
「姫様のおかげで俺達は人間らしい暮らしが出来るようになったんです。
今回の封鎖も何か考えがあっての事なんでしょう?」
「それは……はい。必要な事だと判断しました」
「なら俺達は協力しますよ。なぁ?」
ハースの言葉に鉱夫達が頷く。レオノーラはそんな彼らに再度深く頭を下げた。
「ふぅ……」
「お疲れ様です」
「ありがとう、リア」
レオノーラは拠点に戻り、リアから水を受け取り喉を潤す。
そして一息ついてから、同行しているメイド達に指示を出した。
「封鎖したAルートの監視と報告は厳重にね。何か変化が起きたらすぐ教えてちょうだい。
騎士団にも迅速に出陣出来るように適時呼び掛けて」
「承知しました」
「……レオノーラ様」
「なぁに、リア?」
メイドへの指示出しが一段落した所でリアが遠慮がちに口を開く。
「今更ですが……魔鉱石の採掘量を増やす為の施策として、何故封鎖をなさったのですか?
考えてみたのですが、どうしても思い付かず……」
「あぁ、その事ね。ふふ、自分で考えようとするのは尊い事だわ。
分からない時は意地を張らず、素直に尋ねる事もね」
レオノーラは少し恥ずかしそうなリアが愛おしくて、自分で考えようとしたその姿勢が嬉しくて、 リアの頭を優しく撫でてから説明を始めた。
「私の意図を説明するにはまず魔物の話をしないといけないわ。
リアは魔物についてどれだけ知っているのかしら?」
「え……人を襲い、死んだら魔鉱石を残して霧散する、ぐらいでしょうか」
「えぇ、その認識で間違いないわ。魔物と魔鉱石には密接な関係がある、筈なのよ。
魔鉱石は魔素が凝縮して固まった物だというのは分かるわね?」
「はい」
「その魔物も魔素によって構成されているの。
ただ、発生の法則が分からない。魔素が固まる際にランダムで魔物か魔鉱石のどちらかになるのか。
それとも魔鉱石が時を経て魔物になるのか……
魔素が豊富な場所に発生するというのは確かなのだけど」
「レオノーラ様でも分からない事なのですか?」
「私なんてまだまだ若輩者だもの。分からない事だらけだわ。
それに独占状態で競合が居ないから、魔鉱石や魔物に関しての研究も殆ど進んでないし。……と、話が逸れたわね」
愚痴になりそうな段階でレオノーラはコホン、と咳払いし話を戻す。
「魔物の話で大切なのは、彼等は魔素を放つ……という事。
魔素が固まって魔鉱石になるのは周知の通り。
つまり魔物が居れば彼等が放つ魔素で魔鉱石が発生し、彼等を討伐しても魔鉱石が拾える……という訳ね」
「人の立ち入りを禁ずる事で魔物を呼び寄せよう、という事ですか?
ですがスライムやゴブリンなら今までにも発生していましたが……」
「それでは弱過ぎるの。仮に彼等を倒しても、落とす魔鉱石はとても小さい物だし、発する魔素量も魔鉱石化する程じゃない。
それでも倒すに越した事は無いから、出現する度に倒していたけど……それでは大きい魔物も出てこないから」
「それはどういう……?」
「強大な魔物程、魔素の濃い場所じゃないと生きていけないの。
逆にスライムやゴブリンとかの弱い魔物程、魔素の薄い場所でも生きられる。
今までは出てくる魔物を片っ端から倒していたから魔素が濃くなりようが無かった。倒さないと危険だしね」
「ですが封鎖し、人の居ないAルートなら……」
「そう! Aルートを放置し、スライム達を自由に徘徊させて魔素を濃くしていく。
そして彼等よりも少し強いコボルトやグレムリンが来るようになり更に魔素が濃くなる。
そして更に強い魔物を……という事ね。
勿論強過ぎて手に負えない魔物が出てきたら本末転倒だから……そうね。
オークレベルなら騎士団でも余裕を持って討伐出来る筈よ。発する魔素も小さいとは言え魔鉱石に成り得る量だと思うし」
「以前レオノーラ様が言っていたリスクを背負ってもらう、というのは騎士団の事だったのですね」
「そういう事。魔鉱銃に対しても自信満々で勝てると豪語していたのだもの。オークぐらいは軽く蹴散らしてくれるでしょう」
レオノーラはふん! と鼻を鳴らす。
「ですが採掘量を増やす為に敢えて一部を封鎖する……畑を休ませる、と似ていますね」
「休ませる……そうね、良い表現だわ。
魔物も生態系の一部と言うのなら、これは正に鉱山を休ませる行いね。
……と言っても、現状はまだ私の仮説を元にした机上の空論でしかないのだけど。
結果を知るにはオークが上層に出てくるまで待たなくてはね」
「どれ程の期間を要するでしょうか?」
「分からないわ。初めての試みだし気長に構えるしか無いわね。
もしかしたら来月の会議には間に合わないかも。
何にしても良く観察しておかなくちゃ。
万が一オーガ級の大物なんて出てきたら事だもの」
レオノーラは、はぁ……と溜息を吐いて宙を見上げた。
その三日後……
「ご報告致します! Aルートにてオーガの痕跡を発見しましたっ!!」
「……!? コっ、……あ、……ぴっ!!」
「レオノーラ様!」
レオノーラは水を飲もうとしたタイミングで飛び込んできたメイドから衝撃の報告を受けて奇妙な噎せ方を見せる。
「きっ」
「はい?」
レオノーラはリアに背中を摩られながら……
「騎士団に緊急連絡! 大至急部隊を派遣するようにとっ!!」
レオノーラは喉奥から、あらん限りの声量で指示を出した。
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