※ 第27話 利用された忠誠
「え、リア……?」
「うぅ……っ」
レオノーラが唖然としている間にリアは手際良く縛られて、猿轡を噛まされていく。
レオノーラはとっさに動けなかった。
快感の余韻……というのもあるが、何よりその襲撃者が良く見知った顔だったからだ。
「ミル、ラ……?」
幼い頃から教育係として支えてくれた人。
自分が望む事は何でも叶えてくれた、全幅の信頼を置いている人。
目元を覆うように布製のマスクを付けているが、ミルラを見間違える筈がない。
そのミルラが……自身の手駒としたヘルタと共に攻撃し、リアを縛り上げている。
「ミルラ、どうして……っ!」
「お助けにあがりました、レーゼ様。レーゼ様を襲った不埒者は捕らえましたよ」
「レーゼ……お母様? 私はお母様じゃない! レオノーラよ!」
「ふふ。えぇ、娘が産まれたらレオノーラという名を付けたいと仰っていましたね。
きっとレーゼ様に似て優しく、聡明な子に育つでしょう」
ミルラのその発言にレオノーラは絶句する。
その目に自分は見えていない。
正確には、自分をレーゼだと思い込んでいる。
付けているマスクは洗脳魔道具の類いだろうか。
「ミルラ、私が分からないの? リアは? ヘルタは……っ!?」
「……? 私がレーゼ様を見間違える筈が無いでしょう?
リアとヘルタというのは……新しい従者でしょうか?」
「覚えて、ない……?」
「クスクス、無駄ですよレオノーラ様?
今のお姉様は恋に全力な乙女……簡単に止められるものではありません」
「ヘルタ……っ」
どうやらあのマスクは幻覚や洗脳の他に、記憶も消すらしい。
あの簡易的な紋様からして付けている間だけの現象だろう、とレオノーラは推察した。
そんな魔道具で完璧に騙せているのは、レオノーラがレーゼと瓜二つだから。
そして、恐らくは自分が生まれる前の時代に記憶が後退している。
「お可哀想なレーゼ様。怖かったでしょう、辛かったでしょう。
ご安心ください。その身体、私が清めて差し上げます」
「ミル……んんっ!?」
突然、ミルラがレオノーラにキスをする。
舌を入れられて口内を蹂躙され、その気持ち良さと息苦しさで頭がボーッとしてくる。
「ん……っ! はぁ……っ」
「ふふ。可愛いですね」
「あぁ……っ」
胸も触られ、首筋に吸い付かれてレオノーラの口から熱い息が漏れる。
先程までリアと愛し合っていた身体だ。
まだ余韻は収まらず、敏感なまま。
ミルラの手管もあり、レオノーラは声を抑える事が出来なかった。
「ここも、綺麗にしなければ」
「ひぅ……っ」
胸の先を口に含まれて舌の上で転がされる。
レオノーラは快感を誤魔化すように頭を振るが、出来る抵抗はそれだけだ。
元より疲弊した身体。体術はミルラが圧倒している。
そして何より、魔法でミルラを傷付けたくはないのだ。
「気持ちいいですか? これも全てレーゼ様から教えて頂いた事……
私はレーゼ様の事を愛しています。
実らぬ恋であると分かっております。許されぬお想いであると理解しております。
ですが、ですがせめて……今まで通り夜伽のお相手だけでも……!」
「っ⁉︎」
レオノーラは目を見開いた。
ミルラとお母様ってそんな関係だったの⁉︎ という驚き。
そして、ミルラの手が自身の下腹部に伸び……
「ミル、ラ……っ! それは駄目っ!」
レオノーラは必死で叫ぶ。
これだけはダメだと、明確な意思を込めて。
「私はお母様じゃないの……! 目を覚まして!!」
「レーゼ、様……?」
「んふふ〜、どうやらレオノーラ様は照れているご様子。私が抑えておきますわ、お姉様♡」
「さっきからお姉様お姉様と……貴女は何者? 歳だってそう変わらないじゃない」
「ふふ、お姉様の後輩……新人メイドですわ」
ヘルタは悪戯っぽく笑い、レオノーラに近付く。
「ふ……っ!」
「あぎゃっ!?」
その瞬間、拘束から逃れたリアが背後からヘルタを襲撃。
そしてその勢いのままミルラに組み付いた。
「この……!」
「な……!? レーゼ様から離れろ……!」
「そいつはレーゼじゃない! レオノーラ・フォン・ヴェールバルド……だっ!」
体術では圧倒的にリアが不利だ。
だがリアの目的はミルラに勝つ事ではない。
彼女に装着されている布製マスク……
それが此度の元凶である事を確信していた。
そしてそのマスクを外せば、ミルラは正気に戻る……と。
「う、おおおぉぉぉおぉおぉ!!」
必死に、決死の覚悟でリアは手を伸ばす。
殴られ、蹴られ、頭突きもされ……それでも懸命に伸ばした指先がマスクに掛かったその瞬間……腕を跳ね上げさせ、ミルラの顔からそのマスクを剥ぎ取った。
一瞬の静寂。その後、ミルラの絶叫が響き渡った。
「あ、ああ……ああああぁぁあぁぁぁあぁああぁぁ⁉︎
わ、私はなんということを……申し訳ございません申し訳ございません申しございません……っ」
蹲り、頭を掻き乱し、何度も何度も謝罪を繰り返す。
そして何かを探すように自身の腰を、その後はキョロキョロと部屋を見渡し……
「刃物なんて無いわ! 自分の命を絶とうなんて考えないでっ!!」
ミルラの考えを察したレオノーラは錯乱するミルラの両手を掴んで必死に止める。
ミルラの性格上、ケジメとして自死という手段を選ぶのは何ら不自然な事ではない。
「お願い! 私の言う事を聞いて!!」
レオノーラの必死の叫びが届いたのか、それとも気力が尽きたのか。
ミルラは抵抗を止め、その目からは涙が溢れていた。
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