第16話 告発


「以上です。他の鉱山も第五と同じ施策を取ったところ、全ての鉱山で魔鉱石の採掘量が増加しました」



王城会議。

レオノーラはハキハキと経過を報告する。

この件に関しては自信しか無いので表情もどこか凛々しい。



「素晴らしい成果だ。しかし第一と第三の鉱山は微減しているようだが?」


「当初はその2つに人が集中していたからです。

ですが今は殆どの志願者が五つの鉱山に別れて採掘作業に参加出来る様になってきています。

総合的な採掘量は上がっているので問題は無いかと」


「うむ、そうだな。お前が問題無しと判断したのなら余から言う事はない。今後も励むように」


「はっ!」


「では、本日の会議はこれにて……」


「お待ちくださいお父様! 実はもう一つ申し上げたい議題がございます!」


「なんだ? 申してみよ」


「はっ! 我がヴェールバルドが産出した魔鉱石の輸出データについてです。こちらの書類をご覧ください」



いつかと同じように予め配っていた書類に目を通すように促すと、レオノーラは一つ咳払いした。

会議前にリアから額にキスされて勇気を貰いはしたが、それでも緊張は隠せない。



「データに拠ると、魔鉱石輸入による収益が年々微減し続けています」


「それは貿易総監であるユークレッドから聞いている。

年々採掘量が減っているそうだ。現にレオノーラの施策で採掘量が増えたここ数ヶ月はまた上がったではないか」


「確かにそれはそうです。ですがその前の“年々採掘量が減っている”というのはおかしいのです」


「掘っていけば徐々に減っていくのは道理ではないのか?」


「普通の鉱石ならばそうでしょう。ですがコレは魔鉱石……絶えず自然発生する魔素が固まって出来た物。

余程の事が無い限り、大きく増減する事はありません」



次のページをご覧ください、と促しながらレオノーラはチラリとユークレッドの顔を盗み見た。

見るからに動揺しているのが分かる。



「このグラフが示す通り、魔鉱石の輸出量には殆ど変化がありません」


「む……?」


「次のページを。これは各国の魔鉱石の輸入量です。

複数あって見辛いかと思いますが……合計して輸出量の約90%の数値になります。

国によって多少計測に差異はあれど、10%も誤差が出る訳がありません。残りの10%が行方不明なのです!」


「ふむ、レオノーラよ。それまでの報告を聞くに……ユークレッドを疑っていると。そう思っても構わぬのか?」


「如何にも。私、レオノーラ・フォン・ヴェールバルドは……ヴェールバルド貿易総監、ユークレッド・ロベルバドを貿易法違反及び魔鉱石密輸の容疑で告発致します!」


「ま、待ってくだされ! なんの証拠があって私にその様な事を……!」


「ユークレッドよ」


「は、はっ!」


「潔白の身ならば静かにせよ。レオノーラよ、それは相応の覚悟を持っての発言であろうな?」


「当然でございます。もし私の考えが見当違いでしたら、如何なる罰も受ける所存です」


「ふむ……お前は密輸と言ったな。検討は付いているのか?」


「はい。コレをご覧ください」



レオノーラはぐるりと会議室を一瞥し、衆目が自分に集まっている事を確認し……自らの手でドレスのスカートをたくし上げた。



「何を……」


「コレです!」



露わになった太もも。

そこにはベルトによって固定されているL字の物体。

レオノーラがベルトから引き抜いてテーブルに乗せると、ゴトッと言う重厚感のある音が会議室に響いた。



「それは?」


「一言で言ってしまえば武器でございます。ミルラ、リア!」


「はい」


「はい!」



レオノーラの呼びかけに、2人がアーマープレートを纏った藁人形をズリズリと押し運んできた。



「皆様、耳を塞いでいてください」



レオノーラはふぅ……と長い深呼吸の後、テーブルから再びL字の武器を手に取った。

そして自身の魔力をその武器に込めて……


バンッ! という破裂音が会議室に響き渡る。



「⁉︎」


「な、なんだ今のは⁉︎」


「アーマープレートに穴が空いているぞ……⁉︎」



ざわめく会議室。

レオノーラはそんな彼らを手を上げて制し、声を張り上げる。



「コレがこの魔鉱銃の威力です!」


「魔鉱銃……魔鉱石を用いた武器という事か?」


「正しく。小さな魔鉱石を爆発させ、鉄の球を撃ち出す武器です。

問題はこれが何処で作られたか、という事です。

皆様、持ち手に刻まれたこの刻印をご覧ください!

よく知っている方もいらっしゃる筈です。

何しろ……ほんの30年前まで我らヴェールバルドと戦争していた国なのですから!」


「まさか……」


「そのまさかです。これはガルアーク帝国で作られた物なのです!

お互いに疲弊して休戦協定こそしましたが、未だに和平はしておらず敵同士のままです。

当然我が国の魔鉱石など輸出していない。する筈が無い。

ですが現実として、ガルアークは魔鉱銃を開発しています。

実験や試行錯誤を考慮するなら纏まった数が必要になるのは間違いありません」


「それが行方不明の10%だと?」


「近隣で魔鉱石の採掘が可能な国はヴェールバルドのみです」


「ふむ……」


「お待ちを! 私はそのような物知りませぬ! これは誤解であると強く……」


「ユークレッド殿。何故私が魔鉱銃を持っていると思いますか?」


「な、なんですと?」


「ガルアークの物を入手する手段がある、という事です。この書類もそうして手に入れました」


「それは……!?」


「行方不明の輸出分の10%……それがガルアークに流れた事を示す物です。こんな事が出来るのは貿易総監以外にいません」


「王よ、私の長年の忠誠をどうかお疑いになりませぬよう!

そもそもにして貿易総監を任せられ、目立つ立場の私がどうやってガルアークと取引が出来るというのでしょうか!?」


「スラムです。ユークレッド殿はスラムと黒の牙を利用したのです!」


「……っ!?」



レオノーラの確信と自信に満ちた表情。それと対を成すように、ユークレッドの表情は青褪めている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る