第7話 面接試験

 私はようやくスタートラインの手前までしかまだ来ていないことを自分に言い聞かす。


 大丈夫。自分の思いはきっとモンスター世界でも受け入れてもらえるはず。

 それに不合格でまたあのダンジョンを抜けて人間の世界に帰るのも今は考えたくないし。


 ダンジョン内でトカゲもどきさんたちに会わなければ私はダンジョンを抜けられなかったに違いない。

 一人でダンジョンを抜けて帰れと言われても私には無理だろう。


 ならばこの面接で合格を勝ち取りこのモンスターお役所に就職するしかない。

 就職先さえ決まれば後はどうにかなるはず。


 そんなことを考えながら待つ面接までの30分が私には長く感じた。

 30分後、扉が開いて界魔さんが顔を出して私を呼んだ。


「美音さん。面接試験をします。どうぞ中へ」


 え? 界魔さん、いつの間に部屋の中にいたの?

 魔法か何か使ったとか? いや、今はそんなことより面接に集中しないと。


 私が部屋に入ると部屋の真ん中に椅子が置いてありその前に机があってその向こう側にはさっき別れたはずの所長が椅子に座っていた。


 ちょっと待って! 所長自らが面接するの?

 所長には私の正体バレてるのに?


「どうぞ。お座りください」


 界魔さんが私に椅子に座るように指示をしてくる。


「失礼いたします」


 疑問はあるが私は緊張しながら大人しく椅子に座った。


「これから職員採用の面接試験を行う。名前と年齢、性別、種族を言いなさい」


 所長の凛とした低い美声が部屋に響き渡る。

 部屋には所長と界魔さんと私しかいない。

 つまり所長に気に入られなければ合格にはならないということだ。


 私は覚悟を決めてスウっと息を吸って答える。


「名前は美音です。年齢は18歳。性別は女性。種族はヴァンパイア族の亜種です」


 私は所長が車の中で教えてくれた通りに自己紹介をした。

 だって所長が教えてくれたことはこのモンスター世界で生活していくために必要なことだと思うから。


 人間の私がこの世界でモンスターさん相手の仕事をするためには自分が人間であることを隠す必要があるからあの時所長は私のこの世界での身分設定を考えてくれたのだろう。


 所長は怖いモンスターさんではあるけど優しいところはちゃんとあると私の直感が告げていた。

 その優しさを無駄にしないようにと私が胸を張って自己紹介を終えると所長はフッとその赤い瞳を細める。


「車の中で教えたことは覚えていたようだな。だが、ここには私と私の腹心の部下の界魔しかおらぬ。よってこの面接試験の間だけは美音の本音を言いなさい」


「はい。分かりました」


「では、人間とモンスターがダンジョン内で戦っていることは知っておるか?」


「はい。知っています」


「それではなぜモンスターお役所に就職を希望するのだ? モンスターは人間の敵だぞ?」


 所長の赤い瞳は嘘は許さないと言っている。


 確かにモンスターさんと人間は争っている。

 それは事実だ。

 実際に私はダンジョン内でモンスターさんと人間の戦いを見たのだから。


 その時にふと私はダンジョンで助けてくれたトカゲもどきさんの言葉を思い出した。


 「僕たちは役人モンスターだから一般モンスターを護るのは当たり前だよ」

 「僕たちも家族を養わなければならないし」


 そうだ。モンスターさんたちだって戦う理由は人間と変わらない。

 人間が生きていく権利があるようにモンスターさんたちだって生きていく権利はあるはずだ。

 私はモンスターさんたちの生きていく権利や生活を守りたい。

 だって同じ心を持つ生き物だって分かったから。


 そのためにモンスターお役所で働きたい!


「モンスターさんたちにも生きる権利があると思うんです!」


 私は思わずそう叫んでいた。


「合格」


 私の前に座っていた試験官である所長がそう言った。

 その赤い瞳で私を面白そうに見つめながら。


 一瞬その表情を見て「早まったかな」と思って後悔しても遅い。

 これは私が望んだことだもん。


 な、なんとかなるよね。

 だってここまで辿り着いたのもなんとかなったし。


「美音をモンスターお役所に採用とする」


 所長の言葉で私のモンスターお役所への就職が決まった。


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