第3話 コウ
突風が起こった。
砂ぼこりと落ち葉が激しく舞い木々が揺れる。
「ハァ......ハァ......」
息を切らす凪紗の見つめる先には所長であり恩師、護守 宗悟が佇んでいた。
「......ここまでにしておこう」
「いえ、まだ......!」
再び構えを取ろうとした凪紗だったが、脚がふらつき体勢を崩す。
瞬時に宗悟は距離を詰め,地面に着く前に凪紗の身体を支えた。
「もう十分だ、よくやった。本当に強くなったな、凪紗」
そのまま凪紗は宗悟の肩を借り、少し離れた木のそばで座らされる。
その一部始終を中崎 晶と護守 空は言葉を発することなく見届けていた。
「さて......オレたちも負けちゃいられないな」
「胸を借りるつもりでいきます、中崎さん」
これは遡ること、空と凪紗の初仕事の三か月前、護守探偵事務所の一行は都心から離れたある山へとやってきていた。
こんな人気のない山中へわざわざ一行が足を運んだ理由は、新入社員ふたりの実力を確かめる、いわばテストをするためだ。
空と晶が位置につくと一瞬、静寂が訪れた。
そして、空が小さく口を開き言葉を発する。
「コウ」
直後、空の身体から龍のような曲がりくねった胴体に、キツネを思わせる凛々しい
風貌をした半透明な生物が飛び出した。
その生物は、光弾をひとつ生成すると、晶に向かって超高速で放つ。
一方、晶は地面に手をついて、ただ空とコウと呼ばれた生物を見据えていた。
光弾がまさに直撃しようとするその刹那、晶の手のついた場所から巨大な鉱物が出現し、光弾を防いだ。
鉱物が砕け、爆風が起こる。
その爆風の中から空が現れ、拳が晶の顔面を仕留めた。
......しかし手ごたえはない。
晶は全身を水晶化させることでまたしても攻撃を防いだのだ。
今度は晶の手が空を掴もうと伸びる。
それを空は避けると、逆に伸びた腕を両手で掴み、地面に叩きつけた。
倒された晶は地面に手をついたまま動かない。
迂闊に追撃するのは危険だと判断した空は晶から少し距離をとると、手をピストルのような形に変化させ、指先から光弾を放った。
晶は転がり、直撃を回避するとその勢いで起き上がる。
そのまま首を左右に動かしポキポキと鳴らした後に言った。
「そっちがその気なら、撃ち合いといくか」
晶が手をかざすと、鋭利なクリスタルが宙を浮いて現れた。
そして空めがけて発射する。
それを光弾を放ち相殺する空。
しかし、第二、第三のクリスタルの射出準備をする晶を確認し、防ぎきれないと
判断した空は再びコウを喚び出した。
「そうくるだろうと思ったよ」
コウを”憑依”した状態では光弾を1発撃つと次を発射するのに2秒ほど時間を置かなければならない。
なので、連射が可能なコウ本体を召喚する必要があった。
そうして再び光弾とクリスタルがぶつかり合い、大きな爆発が起こる。
「そいつは1発撃つだけでも相当体力を持ってかれるハズだ。そんなにポンポン放って大丈夫か?」
返事はない。
爆風が晴れるとそこに空とコウの姿は無かった
「......!上か!」
再度奇襲を警戒していた晶は意表を突かれたように天を仰ぐ。
そこには指先からまばゆい光を放ち、晶を見下ろす空の姿があった。
(時間は十分稼げた。これなら......)
相殺は不可能と悟った晶は全身を水晶化させ衝撃に備える。
その直後、空の指先から光線が放たれた。
「......!!ぐぅ......!!」
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空が地面に降り立つと、晶は顔の前で腕を交差させ、なんとか耐えきった様子で佇んでいた。
「流石に今のはマズかったが......なんとか堪えきったみたいだな。満身創痍なのには変わりないがそれはお互い様だろ?」
実際、先刻の一撃は出し惜しみをせず、トドメのつもりで放ったものであった。
空も体力は限界に近かったがまだ決着は着いていない。
両者が構えあったその時――。
「そこまでだ」
宗悟がゆっくりと2人に近づきながら言った。
「それ以上やると互いにタダでは済まなくなる。それに空の実力はもう十分わかった」
「......はぁ」
興を削がれたように晶は臨戦態勢を解き、それに続くカタチで空も息をついた。
「さて、一休みしたら新人歓迎会といこう、あそこの焼肉屋は美味いんだ」
空が背を向けて歩いてゆく宗悟を目で追うと、その先にはすっかり回復した様子の
凪紗と付き添いで来ていた瀬藤 真琴、桜田 彩音の姿があった。
「くっそ、まだ痛てぇ......まさかお前らがここまで強くなってたなんてな。正直驚いた」
晶は悔しいような嬉しいような顔をして言う。
「いえ、わたしなんてまだまだです。倒すべき相手に逆に気を使われるなんて......」
「私もあのまま試合を続けていたら中崎さんに勝てる自信はありませんでした。今回こそは勝つつもりで臨んだんですが......」
幼い頃から空と凪紗を見守っていた保護者たちはその成長ぶりに驚く一方、当の本人たちは自身に納得していない結果に終わりを迎える。
何はともあれ、末恐ろしいふたりのこれからが楽しみだと上司たちは心の中で思うのだった。
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