第24話
彼女に何が見えたのかわからない。僕の場合は何度着けてもヤングマリーだったが、彼女が着ければどうだったのだろう。或いは自分の若い頃を見て驚いただろうか。彼女の表情からはそれは伺えない。或いは、僕の意中の相手がまさかの自分だったことに驚きもさることながら
答えは
「よく手に入れたね、こんなの」
僕の手に戻ったイリュージョナブルを指して彼女がさらに言う。
「どうした? 着けないの?」
着けられるわけがない。ここで僕のノスタルジアを再現したらどうなるかわからない。僕は悟った。本妻はすべてを知ってしまったんだ。もうこうなりゃあ潔く観念するか。
「そっか、もう
彼女の呟きに確信した。絶対そうだ。
「帰り遅くなる?」
そこに追求はなかった。嫌疑は込められていなかった。
「いや、それほど遅くはならない」
帰ろうと思えばいつだって帰れる。こんなあとにヤングマリーともう一度会うことを僕は考えつかなかった。本妻の何か押し込めたような感情に、先ほどとは違う
「なるべく早く帰るよ」
僕の感情は不規則に波打っていた。
「そう、じゃあ君の好きなの用意しておくね」
「好きなの?」
背中を伝う冷たいものを垂れ流すに任せていた。
「
馬刺しが好きだったのはうん十年前のことでいまは好きでもなんでもない。だがそんなことより・・・許された!? そうなのか? そうさ、はじめから後ろめたいことなどないんだ。僕が愛を再燃させたのはマリーという女性の時間軸の中だけなんだから。そこから一歩もはみ出していないんだから。
「いいね。ありがと。ごめんよ」
何に感謝し何に謝っているのか自分でもわからなかったが、結局僕はこうはぐらかすことで彼女達を本気で愛せていなかったんだと思う。
本妻は
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