第17話
その晩は自粛するつもりだった。不具合のせいではない。本妻のあの冷たい目だ。あれに
かえって疑いを持たれるようなものだ。普段長居しない
それでも僕は
(彼女もごねてるのかな?)
この程度のことだ。ヤングマリーの
結局、この日は諦めてまぶたを下ろしてみたが、寝つきは大層悪かった。
翌朝、いろいろやってみたがどれもだめだった。仕方なしに僕は例の写真を取り出した。赤いレザーコートのヤングマリー。黒髪の頂の真っ赤なもみじ。動かぬ彼女の絶対的な美しさに僕は心が
なんだかわからないがやったぞ!
「久しぶりだねマリー」
二日ぶりなのに僕は懐かしさを覚えた。
「おかしいよ、昨日も会ったよ」
時が止まっている彼女にはエブリデイ僕がいる。だけど僕には彼女へのノスタルジアを喪失させると会えない、そういうことなのか? たとえばうんざりとか感じていると会わせてくれない、そういうことなのか?
「そのコート似合ってる。先週原宿で買ったんだよな」
「やっぱりおかしいよ耕太郎。一緒に買ったじゃん」
「うん、そうだった」
だったら、もう二度と彼女の時を、彼女の知らない未来から眺めないよう努めよう。僕もあの頃の彼女と一緒にいる。そうすればいつも彼女と一緒にいられる、そういうことなんだろ?
「変えようとしないでね」
彼女は何を指してそう言ったんだろう。
「わかったよ」
変えようと思わなければ、うんざりしなければ、彼女は僕のものである。誰に見せるわけじゃない。誰に渡すわけじゃない。僕のマリーだ。彼女は絶対に変わらないんだ。
そして、僕は彼女の永遠に熟れたさくらんぼうのような愛しい唇に自分の唇をそっと寄せた。これまでにない幸福に満ちた接吻だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます