第13話

 この頃、若い女の子のトレンドを牽引けんいんしていたファッションリーダーの女性タレントは、男性人気は抜群だったけど女性からのバッシングも少なくなかった。多くは綺麗すぎる彼女の顔立ちに対する女性たちのねたみだと僕は思った。若い女の子たちは美容師に頼んで彼女の髪型を真似したりしてどうにか彼女に寄せようと努力していたからだ。

 気難しい僕の彼女は素直には女性タレントのファッションを受け入れなかったが、どこかしら影響は受けていた。全部でなくても似たようなパーツを取り入れてみたり、時間を置いて真似してみたり、明らかに女性タレントのファッションを意識していたが、それを「かわいいね」とは決して言わない。ひとしきりくさす。そのあとで、

「そう思わない?」

 と僕に同意を促す。僕はいつもこう言っていた。

「そうだね」

 反論するほどの大層なことでもないし、ここで同調しておかないとあとあと面倒臭い。それに僕はマリーを愛していたから思いを同じくしておきたかったのが正直な気持ちだった。彼女の感情を刺激しない守りの習性がこの頃にはでき上がっていた。彼女から問われて、反対意見を述べたことはほとんど記憶にない。そしていまの僕も、

「そうだね。そうかもしれないね」

 否定したところで何が変わるというのか、彼女を立腹させるだけだ。その無駄な行為を僕は面倒臭がった。怖いのではない。僕が大人になっただけだ。僕はヤングマリーの未熟さをずっと高い位置からおさなごの可愛らしさとして眺めていた。

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