第10話
ぜったい夢の続きだと思った。何故なら隣で眠っていたマリーは赤いレザーコートを羽織ったまま布団に潜み、枕の端っこに頭を休ませ、その
夢だと思いつつ、僕はマリーを起こさぬよう静かに寝顔を覗き込んだ。まさしくあの写真にでこぼこを付けたマリーだった。くっきりとした顎のラインの突端が柔らかな朝陽に照っていて、固く閉じられた唇は熟れたさくらんぼうのように赤く瑞々しい。
久しく忘れていた感情を布団の中の我が身に覚えた。触れると消えてしまうのではとの思いから僕は彼女の寝顔を見つめているだけだった。昨夜から着けたままだったイリュージョナブルに、左右の耳と
「おはよう」
彼女が言った。夢にしてはあまりにもその声は生々しく
「
名を加えられても反応できず彼女を見つめるだけだった。ゆるりと体を起こし彼女を眺めた。
彼女もベッドから体を起こし隣に並ぶ。眠っていた女の子とは思えぬいい香りが漂う。遠い記憶、めまいするほど甘美を伴う。体の奥の方にしまってあった性的な欲求までをくすぐる。
(彼女が昔身に付けていたにおいだ)
視覚から入る奇跡的現実を、夢だと疑う僕に、彼女は嗅覚を持ってこれは現実なんだと僕の目を覚まさせた。あっという間に僕は現実に引きずり込まれた。確かにマリーだった。僕が恋したマリーがそこにいる。
マリーが笑う。
(何がおかしいんだ?)
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