第8話

 以来、苦手意識を持っていた彼女に対し、僕は見方を少し変えた。


(あんがい壊れやすいやつなんだな)

 

 マリーにも行動に変化があって、


「途中にでも食べて」

 と時折、手作り弁当を渡された。悪い気はしなかった。

 それとともにだんだんと彼女のどこか異国的な外見の美しさにもかれていった。


 交際を申し込んだのは僕からだった。マリーはそれを待っていた。僕の遅い申し出に、

「やっとだね」

 と苦笑い気味に微笑んだ。後にマリーは言った。

耕太郎こうたろうはブランドよりブランドっぽいほうがいいんだよね」

「どういうこと?」

 そう尋ねるとマリーは、

「そういうこと」

 とはっきりしない。


 おそらく言わんとするは、見た目だけで女性をジャッジしている僕の薄汚い本質を見ぬいていたんだと思う。

 反論はしない。でもこの時の僕はマリーがどこの国の誰であれ関係なくマリーだから好きなんだと言えた。

 だからマリーの両親には何の抵抗もなく彼女と結婚させてくださいと言ったし、あの頑固がんこなマリーの親父も僕を婿むこにしてもいいと素直に認めてくれた。


 ところが問題は僕の両親だった。

「やめとけ、ほかにいるだろ」

 父親の意味不明の反対に僕は、

「何がいけない?」

 すると父は、

「親戚に顔向けできん」


 まだこんな古ぼけたナショナリズム・・・・・・・が残っている時代だった。父の古びた観念には日本人は日本人の妻をめとるのが当たり前だったのだ。母までが、

「あなたはいいとしてよ、あなたの子供がいじめられるの可哀想じゃない?」


 それを僕は母の血族への偏愛へんあいだと思った。

 

 それがためかどうかわからないが、僕とマリーに子供はできなかった。

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