第7話
夏の終わりころ、マリーは大学の友達とカナダへ旅行に出かけた。
数週間ほどのち、帰国した彼女から
「お口に合うかしら?」
とお土産を渡された。高そうなウィスキーだった。
行く前は、そんな風に語りかけてこなかったじゃないか。気味悪く思いつつ、
「大好きだよ。ありがとう」
と無難な言葉を選んだ。反応を確かめるつもりで彼女の表情を伺ってみると、ほとんど合わせてくれなかった視線をこの時は感覚的に十秒以上外してくれなかったので、もう少しでちびってしまうところだった。
「寒かったわ・・・」
何のことかと思ったが、多分行った先の気候を言っている。こっちは尋ねてもいないのに。
「そうなんだ」
せっかくの無難なあとだけにもう少し絡ませないといけなかったかなと、言ったあとから思ったが、僕の言語領域を狭めているのは彼女なのだから仕方ない。これで機嫌を悪くされるとしても仕方ない。ところが、まだ話は続きがあった。こっちは次の配達があるっていうのに。
「途中からね、一人だったの」
これも言っている意味が最初分からず、一瞬戸惑ったが旅行のことしかないので、
「何かあったの?」
と尋ねてみた。すると彼女がみるみる目を潤ませはじめた。やばい、と思ったがここで切るわけにはいかない。
「友達と一緒だったよね?」
「なんだけどね・・・」
聞けばどうやら旅先で仲間と喧嘩したらしい。彼女ならありそうなことだ。勿論そんなこと口には出さなかったが。行動
「ね、ひどいと思わない」
こう同調求められたので、
「それはひどいね」
と口先だけで返してみたが、考えたとしてもそれ以上の言葉が見つからなかっただろう。そのあとの言葉が続かずとうとうマリーは号泣しだした。またも僕は店先で立ちすくむしかなかった。これじゃあ、僕が泣かしてるみたいじゃないか。
「ナショナリズムかしら?」
彼女の気難しさと涙の源泉を解き明かすこの問いかけに、僕は面倒くさいので、
(じゃなくて
とよほど言ってやろうかと思ったが、彼女の泣きっ面に接して見ると、これが予想外にいじらしくて可愛いいのである。
「そんなの関係ないよ」
思いと裏腹に口走っていた。
マリーが僕の汗臭い制服目掛けて涙顔をぶつけてきた。こういう場面、彼女の好きなドラマでもよくあるのかな? そんなことを思案しつつも、僕はこのあとのルートに配達が遅れる理由をどう言い訳すべきか思い巡らしながら彼女の背中を
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