第6話

 マリーのご家族は祖父母の時代に半島から渡ってきた人達らしい。

 しかし、そんなことは関係ない。僕はこう思った。この子にはできるだけ近寄らない方がいいと。


 すぐに奥さんが飛んできてマリーを引っ張って行ってくれたからよかったが、あのまま彼女の癇癪かんしゃくが止まらなかったら僕は店頭で立ちすくむしかなかった。


 これが僕とマリーの出会いだ。

 苦手だからといっても得意先の娘。毎日配達に行けば顔を合わすことだってそりゃあある。

 午前は早朝に商品を降すだけでいいが、午後は納品プラス翌日の午後便と翌々日の午前便の注文シートを回収しなければならない。

 どうしたってマリーとも鉢合はちあわせになる。僕的には避けられるものなら避けたいと思ったが、マリーはどう思っていたかわからない。


 それ以来、臆病風おくびょうかぜからできるだけマリーにも視線を向けるように心がけた。

 冷たいものでなく急拵きゅうごしらえの暖かいやつを。マリーは0.00001秒くらい僕と視線をかすらせるがニコリともしなかった。


(可愛げのない奴)


 でも癇癪かんしゃくを起こされるよりはずっとよい。

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