第2話

 近頃、人を愛するという原始的なことにおいて向き合う角度が変わってきたように思う。真正面から誰かに愛を語りたいと思わなくなっている。そうなると妻マリーと接吻することもセックスすることもなくなったし、妻以外の他の誰かとその行為を代替したいとも思わなくなった。単純に誰かを嫌いになったとか愛がなくなったとかそんなyesかnoみたいなことではなく、誰に対しても欲望が湧いて来なくなったのだ。


 ところが、この写真が僕のち果てた心に油を注いだ。この時のマリーとならば、もう一度まじな恋をしてもいいかなと思う。片方はもうすっかり父親のような年齢になっているのにだ。


 現実世界では、二つ歳下の内縁の妻マリーが僕と部屋を分かつ離れたベッドでたぶんだが眠っている。

 その寝室に僕の想像は及ばない。突如現れた写真の笑顔にだけどんどん吸い込まれていく。そこには重ならない時間と距離がある。彼女はこれほどに若く美しい女性だったのか。そして僕はこの笑顔に何度も接していたのか。


 明日までに目を通しておかなければならない書類を放っぽり出して、僕は若きマリーにしばくぎ付けになっていた。これほど懐旧きゅうかいの情に駆られたことはない。

 

 時は僕を変え、彼女を変え、僕をノスタルジアにしがみつかせる。


 たった一葉の写真にあろうことか僕は恋に落ち、そして狂わされた。

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