第19話

 無人店舗の開闢は赫赫かっかくたるもので、連日メディアは時代を先取りしたスマイルエディットの計画を早、殷富いんぷの事例として取り上げた。テレビでは特集を組んで敢えて賛成派と反対派を分けてこのテーマへの関心を吊り上げた。競り合っていた同業のコンビニ会社もすぐに同じシステムを立ち上げた。出遅れをカバーせんと国内は関東だけだったが、海外に先回りしてきた。ジャカルタとホーチミンにそれぞれ1店舗、同じ月に脆弱ぜいじゃくなセキュリティのままほぼ見切り発車で開店した。ここの技術覇権が如何に優勝劣敗を分けるか彼らはよくわかっていたのである。

雄吉は時の人になった。彼は会社の指令によりエポックメイクなプロジェクトに抜擢されたわけであるが、それがも彼独自のアイデアであったかのように扱われた。幾つかのメディアは彼を褒めそやし彼を追った。だが彼はプロトタイプではなく次の本格店舗を作るため多忙を極めていた。立ち止まっているわけにはいかなかった。既につぎの店舗を都内中心地と関西の都市部に構えることを画策していた。それには生体認証とクレジット情報、さらには生年月日、性別までの収集を店舗内に別ブースを設けて読取端末をずらり配列し、すべての操作を顧客が自ら行えるようにした。また更にライバル店を追撃すべく海外戦略の地歩ちほも着々と固めていた。彼の求める次世代型店舗、対面販売を全廃する理想の社会は間もなく到来しようとしていた。

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