第11話

 雄吉がこうした仕事に就くきっかけは、現在彼が着手する省人化と対峙たいじするかのように皮肉にも沢山の人脈が影響した。

 彼は国内の外国語大学でイタリア語を学んだが、入学動機は付和雷同ふわらいどう的だったと言わざるを得ない。イタリア語選択に特別な意図などなかった。そこがセンター試験の得点で入れるボーダーすれすれだったからである。


 在学中はバイトで片道の渡航費だけ稼ぎ単身イタリアに二度渡った。大学1年生の夏と2年生の夏である。

 語学留学と言えればよかったのだが、そんな修学臭しゅうがくくさいものではなくただ単に国外に飛び出せば何かあるだろうといった粗忽そこつで無計画な冒険だった。

 現地で仕事を見つけ旅の資金とした。宿は取らず行きずりの人に声をかけつたないイタリア語で一宿の床をすがった。

 若さが廉恥れんちを降ろし勢いだけの流浪るろうを正当化した。

 時にバルで喧嘩に巻き込まれたり乏しい小金を盗まれたりもした。それでもこの旅で雄吉は言葉の壁を乗り越えて人間がどうすればむつみ合えるかを分かった気がした。


 それを彼に確たるものにしたのは、最初の旅で彼が出会ったイタリア人のガールフレンドである。バスの行き先を訪ねた際(実のところ彼は好みの女の子を物色していたのだが)、目的地が同じだったことから隣に乗り合わせ意気投合した(させた)。

 彼は習ったばかりのイタリア語で知る限りのromantico(ロマンチックな) parola(ことば)を並べたて彼女を口説いた(笑わせた)。

 ませた流暢りゅうちょうな言葉より余程彼女には雄吉の荒削りな押しの方がお気に召したようだった。


 雄吉を受け入れた彼女はその日の月下にも肉付きの良いもも銀色ぎんいろひたした。

 ねやとこで彼女が低くらす西方せいほう隻句せっくは雄吉にはぜんぶ容易に理解できた。

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