第10話

 確かに世の中は雄吉の考えを支持していた。省力化と自動化に舵を切っていた。いや雄吉が世の中のニーズを読み取りこれに同期を取っていたというが正しい。

 だから賛同を得るのに労苦はなかったし、人々は間違いを犯す隣人たちより不道徳や倫理観などから懸絶けんぜつし司法が入り込む余地のない完璧な仕事を遂行する自律的システムを愛した。

 例えそいつが一人歩きしようがしまいが時代が変わる潮目に、嘱望しょくぼうされる未来を見たがった。

 そんな世相に押されて雄吉の無人店舗プロジェクトは氷上を一蹴りの容易たやすい力で滑走していった。

 テスト期間を経て埼玉県にあるN区の飛び地に、eM‿Meエミー無人店舗第1号店が開店したのは、その年の節分2月3日だった。

 選ばれた地区の住人だけが入れる特権から開店初日は地区の住人ほぼ全てが季節外れの夏祭りに集まるように群がって来た。メディア関係者もその場で登録され買い物を体験した。その日中にサイバー上には、無人&キャッシュレスコンビニ誕生と喧伝けんでんされた。圏外の客も物珍しげに見物にきた。釣られて入店しようとするも生体認証で引っかかり店先でブロックされた。システムは正常に作動した。雄吉は相好そうごうを崩してこう独りごちた。

 

 「世の中が変わる」

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