第5話
5つの旧三級品は接客台に横に立てて並べられていた。このままでも雄吉は片手に摘んで持ち帰ることは出来たが、こうした場合の当然あるべきサービスを雄吉は期待した。コンビニでいつも買う時、それは付いてくる。口にすべきか迷ったが、千鶴がまた澱んだ刻に身を戻し端座しかけるのを見たが為、言わざるを得なかった。
「入れるもの、くれません?」
むき出しのタバコには手を触れなかった。敢えて手に余るぞと見せつけたかったからだ。
すると千鶴は薄暗い部屋をぐるりと見渡し片隅に投棄ててあった古新聞らしきものに目をやった。その間何の言葉もない。無機質な動作。やはり新聞紙。想像するに購読しているものではない。どこかから拾ってきたものに違いない。その一枚を剥いで5つの旧三級品を包み始めた。
(まさか、それを?)
冗談じゃない。焦がした焼き芋を売っているんじゃない。タバコを買うのに、どうして新聞紙に包んで渡されなければならないのか。それを剥がして捨てる無駄な行為と、商品を入れる袋すら置いていない非常識が一緒くたになって、ついに雄吉は感情を抑え切れなくなった。
「もういい。そのままくれ」
千鶴の手にあった見窄らしい包み紙を奪い取り、外側を剥いでガラス向こうの部屋に投げ入れた。
燻っていた不満、即ち自動販売機に彼の欲する物がなかった不満までが再燃して彼の感情を昂ぶらせたが、思い直し彼は千鶴に頭を下げた。日を改めてこの女にも自分が進めるプロジェクトの協力を要請しなければならない。そう思えばこんな煩わしい商取引を終わらせるこれは小さな災禍に過ぎない、と自分に言い聞かせた。
雄吉は心の中で呟くのだった。
(対面販売の時代はもう終わる)
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