第4話
気持ちを整理して雄吉は入社時に教えられていた接客基本を(なんで俺がと思うも)呼び覚まし作り笑顔を装った。
「ありがとう。同じものをあと4つもらえますか?」
やはり相手は無言であった。だが、雄吉の言っていることは理解している。4つのタバコがさっきと寸分違わぬ動作で雄吉の前に運ばれてきた時そう解釈したが、人工知能であってもそれは確かに出来たはずである。どこまでが人為的だったか雄吉には
5つの代金は計算するまでもなく雄吉が常日頃コンビニで支払っている金額であったが、彼は近年現金で支払ったことがない。
代わりに雄吉はこの女にどこまでの対人能力が備わっているのか底意地悪くも確かめたくなって、敢えて面倒なお釣りを要求した。その時偶然ながらも触れた手には体温らしきものがあった。
万札を掌に摑まされた千鶴は、サングラスをやや近づけてお札の種類を確かめていた。高額紙幣だからそうしたのか、それとも計算に戸惑っていたのか。しかし返ってきたお釣りは、5千円札を含む8千2百円で狂いはなかった。目は見えている。計算も人並みにできる。だったら人並みな会話もできるだろう。それでも雄吉が惰性から期待したような商売文句はこの女から一言も漏れ出て来なかった。
雄吉も客商売に関わる筋柄、面倒を感じるとはいえ、さすがに客を舐めた無愛想は
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます