第15話:艦隊の沈む日

 レインがバークを下した時、カレンの駆るエクリプスは、カタストロを艦隊に撃ちながら、その合間に敵ASとも戦っていた。


 無論、彼女にも護衛機はいる。

 だが、敵との性能差や技量によっては、どうしても隙が生まれる。


 艦隊だってそうだった。

 一撃で沈めなければ、残った砲で撃って来て決死の攻撃を仕掛けてくる。


 下からは砲や機銃。空中には敵ASが。

 そんな状況下で命がけの戦いをカレンは繰り広げていた。


「邪魔するな!!」


 カレンは接近してきた敵AS――アウェスをビームブレードで溶断した。

 

 カタストロが接近戦では邪魔になるが、艦隊を潰す為に手放せない。

 それにカレンは映像でレインの戦い方を見ていた。


 カタストロを持ちながら、あのガルム中隊と戦った時の映像を。

 だから可能な限りだが、動きは覚えたつもりだった。


 それが功を奏し、彼女はカタストロを失わずに戦える事が出来ていた。 

 

 だが如何せん、やはり護衛機の弱さが目立った。

 ビームやマシンガンで牽制はするが、敵は余裕で抜き去り、カレンを狙ってくる。


「レッドアイ少尉! 敵に抜かれました!?――うわっ!!?」


 どこか緊張感のない護衛機にカレンはイラつくが、そう思っている間に護衛機は撃墜される。


 そんな光景にカレンの余裕もなくなってきた。


「あぁもう!――このままじゃ、艦隊をいつまでも潰せない……!」


 セルバンテスも、周囲の艦や敵ASの対処で余裕がない。

 クロックですら片腕でも上空を飛行し、何とか対処しているぐらいだ。


 他の味方機はタワーシールドに隠れながら撃つだけで、未だに戦果はない。

 数はいるのに、このありさまではと、カレンは苦い顔をする。


『あの鎖付きの赤鳥を落とせ!!』


 敵もカレンをマークし、集中的に狙ってくる。


 そんな状況でも彼女は、接近する敵AS――サイクロンを、胸部ビーム機銃と腰部スラスター兼用ビームガンで撃墜した。


「あの潜水空母も何とかしないと……隊長に顔向け出来ない」


 そう言ってカレンは苦しい表情を浮かべた。

 カレンの中でレインの評価は既に高く、信頼していた。


 普通に死ぬレベルの相手とも戦い、自分達に楽をさせてくれる優れたパイロットだからだ。


 だからこそ、レインにも楽をさせてやりたいとカレンは頑張っているが、多勢に無勢だった。


 それでも必死に隙を見つけ、戦艦や護衛艦にカタストロを放ち、何とか沈めた。


「これで4つ目! あと7つ!!」


 旗艦カテドラル級・潜水空母――を含め、残り7つとなったが艦隊も必死に抵抗してくる。

 

『主砲撃て!!』


 セルバンテスもアールの指揮の下、近くの艦を何とか撃墜するが、残り6となってたが、潜水空母は健在。


 次々と敵ASが発進してくる。

 

「流石は空母……数が多い!」


 カレンはそう言って、もう何度目かとなる敵ASの護衛機突破を見て、再び身構えた時であった。


 離れた方向から一発のビームが飛んできて、それは敵ASを的確に貫いた。 

 

 それを見てカレンは反射的に誰が撃ったかすぐに分かった。


「隊長!!」


 それはレインの駆る、イーグルの放ったビームだった。

 

「イーグル2! 敵AS部隊と潜水空母は俺が抑える! お前は残りに連れて艦隊を潰せ!」


「了解!!」


 レインが来たなら心強いと、カレンはエクリプスのスラスターを一気に放出し、艦隊へ高機動で迫った。


 護衛機も急いで後を追っていき、敵ASが彼等を狙おうとした所をレインが撃墜した。


「行かせると思うか……!」


『なっ! 蒼十字の渡り鳥!?』


『バークが落とされたのか!?』


『撃て! 奴を空母に近付けるな!!』


 敵AS部隊は目標をイーグルへと合わせ、一斉に攻撃を開始した。

 ビームや実弾の嵐がイーグルを押そうが、レインは、そんな嵐を乗り越える。


 四枚の翼を展開し、一気に上空へと飛行した。

 そして敵が狙うために、上空を向こうとする僅かな間を利用し、腕部重マシンガンやビームガンで敵を上空から撃ち抜いていく。


『だ、駄目だ――うわっ!?』


『渡り鳥を止められない!?――ぐああぁぁ!!』


 イーグルに撃たれ、次々と撃墜されていくアウェスやサイクロン部隊。

 彼等を落とすと、イーグルは落下する様に一気に空母へと迫る。


『敵AS接近!』


『潜水急げ!!』


「逃がすか!」


 距離は離れている中、潜水を始めた空母にレインはビームガンの狙いを定めた。

 目標は管制塔であり、そこを狙撃。そのまま管制塔は爆発炎上を起こす。


「悪いが……沈める!」


 ここで潜水空母を逃がす訳にはいかないと、レインは非道となった。

 潜水空母の側面――海上ギリギリを飛行し、ビームブレードで真っ直ぐに溶断する。


 そして真っすぐに溶断し終えると、潜水空母は炎上を始め、黒煙と共に沈んでいった。


『イーグル1が潜水空母を撃沈! やりました!』


「まだカテドラル級が残ってる! 状況知らせろ!」


『は、はい! イーグル2がまだ戦闘中です!』


 レインはオペレーターの言葉を聞き、カレンのエクリプスをカメラで捉えた。

 

 そして、それを見て安心した。

 彼が向いた時、そこでは丁度エクリプスが、カタストロをカテドラル級のブリッジへ向けていたからだ。


 またその時、カテドラル級ではバルトロの海将軍――オルマ・ダイダル中将が、無念そうに歯を食い縛っていた。


「アルエール撃沈! セメントル、チョコオペラも撃沈されました!――あぁ! 潜水空母が!」


「潜水空母! 撃沈!! 中将! ご指示を!!」


「……全てASか。AS以前の戦いしから知らぬ、古き儂等は不要なのか! 答えよ!! 時代よ!!」


 まるで発狂したかのようにダイダル中将は叫んだ。

 ASが生まれる前から国を守り、戦ってきたのだ。


 なのに、その結果がこれかと。

 クズ共の要人の為に戦ったのではないと、中将が叫んだ時だった。


 カレンの駆るエクリプスがブリッジ前に飛来した。

 その手にはカタストロが握られており、彼等が見たのはカタストロの銃口から光るビームの光だけだった。


 そしてカテドラル級はブリッジが大きく爆発し、最後は黒煙と共に沈んでいった。

 

 無論、避難船は出ていた。そして当然、それを狙う様な真似はレインもカレン達もしなかった。


『イーグル2! カテドラル級を撃墜! やりました! あの最大の艦隊を撃破しました!!』


「ふぅ……! 終わった」


「良くやったな。イーグル2……いやカレン・レッドアイ」


「あっ、隊長!?」


 空中で一息付いていたカレンのエクリプスも傍に、イーグルが来ていた。

 そしてレインからの労いの言葉に、カレンは嬉しそうに笑う。


「約束通り、奢ってやる。好きなだけ食え」


「本当ですか? 私、すっごく食べますよ?」


「上等だ。俺の腕を腱鞘炎にして見せろ」


 そう言って互いに笑うが、レインもカレンも沈みゆく艦隊と夕日を見ながら、確かに寂しさを感じていた。


――こうしてバルトロ共和国最大の艦隊。カリュブディス艦隊は蘇った伝説の前に消えていったのだった。

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