第4話 反社王子の成り上がり!

 ラグルヒルを宿に連れて帰ってきて俺はソファーに寝転がる。女神はラグルヒルの髪を撫でて愛でている。そんな中でラグルヒルが目を覚ました。


「ここは…」


「おはようお姫様。ご機嫌はいかがかな?」


 俺はソファーからラグルヒルに声をかけた。


「あなたは確か…あたしを助けてくれた人…」


 まあ助けたと言えば助けたと言えるのかもしれない。そんなつもりは毛頭ないのだが。


「ありがとう。あのままだったらどのように扱われていたのか想像するのも恐ろしい。本国に帰ったならば様々なお礼をさせていただきたい。あなたの勇気と優しさに感謝したい」


 ラグルヒルは感動した様子で俺に頭を下げている。奴隷にさせられてそこから助けてもらえたと思ったのならばまあその反応は当然なのだろう。


「がっかりさせて悪いけど。お前を助けたつもりはないんだ」


 俺は右手を少し上げる。そして透明化していた鎖を召喚する。その鎖はお姫様の首輪に届いている。


「え?ええ?!鎖?!そんな?!どういうことなの?!あたしを奴隷から救ってくれたんじゃなかったの?!」


「誰がそんなこと一言でも言った?俺はあの男からお前を横取りしただけ。所有者が変わっただけで、あんたは奴隷のままだよお姫様」


 その残酷な現実にお姫様は愕然としている。女神はそんなラグルヒルの肩を抱きしめて頭を撫でている。


「ああ、可哀そうな娘。なんて過酷な運命なのでしょうね。ですがこのわたくしの侍女であるのならばかならずや栄光に届くとわたくしは信じておりますわ」


 侍女?なんか女神的にはそうなっているらしい。だけど俺的にはラグルヒルは貴重な兵隊だ。


「くっ!このあたしが奴隷だなんて!お家の恥にはならないわ!殺しなさい!」


「あいにくだけど、こっちも危ない橋渡ってお前を手にしているんだ。元は取らなきゃならない」


 俺はソファーから立ち上がって、ラグルヒルを見下ろす。


「はじめましてラグルヒル・エルムト。俺は天了。苗字は捨てた。ただのタカアキだ。この南極でのし上がるつもりでいる。よろしく」


「のし上がる…?!この南極で?!つまりお前は犯罪者か!」


「遺憾ながらね」


「あたしは犯罪者の奴隷なのか…。慰み者にでもするつもりか?!だが心までは奪わせない」


「お前の心なんて要らん。俺の心に住んでる女はもういるんだ。お前に俺が求めるのは確かに体だ。だがそれは夜伽ではなく、戦うことだ」


 ラグルヒルはきょとんとしている。


「お前はあたしを戦闘員にするつもりなのか?」


「ああ。すぐれた魔術と戦闘術を有しているのは知っている。東京の異能学園にも通っていたんだろう?なら十分だ」


「断る!あたしは騎士として国や人々を守るために戦う術を学んだのだ!犯罪の片棒など絶対に担がない!…ぐぅうああ!!」


 俺は鎖に懲罰の指令を送り込む。ラグルヒルの身体には今激痛が走っている。


「まだろっこしいのは嫌いなんだ。俺にはとにもかくにも戦力が必要だ。お前が戦わないならばいくらでも痛めつけてやる」


 すでに俺の心のブレーキは何処か壊れかかっている。女の子相手に拷問まがいのことが出来るようになったことに取り返しのつかなさを感じる。


「ぐぅううう!くく、あはは!いくらあたしを痛めつけようともそんな命令に従うつもりはない!痛みであたしを屈服させることなんてできないと知れ!」


 なかなかにメンタル強いお嬢さんらしい。さすがは王族といったところか。ノブレス・オブリージュ。上に立つ者のとしての高貴さを体現している。だったら俺はいつでもその高貴さをぶち壊せると教えてやろう。


「スマホは便利だ。マンガを読むことも、ニュースを見るのも、動画で猫を見るのも自由自在にできる」


「…ん?いきなり何を言っているんだ?」


「ついでに言えば男ならポルノだって見られる。今じゃ動画サイトでポルノがどこでもいつでも見放題だ」


 俺はスマホでエロ動画サイトに繋いで、ド派手でハードなgangbangの動画を再生する。そしてそれをお姫様に見せつける。


「やめろ!そんな汚らわしいものを見せるな!」


 お姫様は目を反らす。なお女神はトイレに駆け込んでゲロってた。俺はお姫様の髪を掴んで動画を無理やり見せつける。


「どうかな?こういう動画の主演を務めないか?お前ならきっと億単位の再生数を手に入れられるはずだぞ」


「なっ?!お前?!」


「一国のお姫様のハードプレイに世界中の男たちが滾る光景が目に浮かぶねぇ。きっと君のお国の国民たちもそんな動画に夢中になってくれるんじゃないだろうか?」


「ふ、ふざけるな!あたしはそんなことはぜったいにやらない!そんなことをやるくらいなら死んでやる!くぅ!くそ!なぜ死ねない!」


 お姫様は舌嚙んで死のうとする。だけどそれらの行いのすべては空振りに終わる。奴隷に自殺を許さないように俺は設定を書き換えている。


「お前の生殺与奪は俺が握ってるんだよ。でも俺はできるだけやる気を持って仕事をして欲しいからこうして説明してるわけ。お前が手を抜かず俺の指示に従って戦闘に従事するのであれば、ポルノ女優としてデビューさせるのはやめておいてやろう。だがもし戦闘で手を抜いたり、反逆しようとしたり、裏切ろうとするのであれば、即ポルノ行きだ。ご理解いただけたかな?お姫様?」


 ラグルヒルは今にも泣きそうな顔をしている。俺のことを恨めしそうに睨んでいた。このままだと絶望だけしかないだろうから、多少は希望をちらつかせてやる。


「俺も悪魔じゃない。多少の慈悲は持ち合わせている。だからこの先戦力が充実したときにはお前を解放してやってもいい」


 お姫様の瞳に多少の生気が戻ってくる。


「だがそれも普段真面目に働くかにかかっている。いいね。俺を失望させるな」


 こうしてお姫様への労働条件の通知は終わった。とんだブラック企業である。まあ反社なんでそんなもんだろう。










 ラグルヒルが一応仲間(奴隷)に加わった。なのでできることが一気に広がった。


「さて天了さま。これからどうするのですか?」


「シノギが欲しい。ここニューオタル市はいろんなヤクザやマフィアが跳梁跋扈してて無法地帯だ。いろんなところにいろんな組織のシマがある。だからヤクザのシマを奪おうと思う。昭和基地の反対側のこっちは日系組織のヤクザはあまり強くない。ぶちのめしてそっくりシノギをいただく」


「なるほど!強大な敵に立ち向かい、財宝を得る!まさしく王道!素晴らしいですわ天了様!」


「いやただの犯罪だろうが…」


 女神は楽しげだが、ラグルヒルはひいている。


「で、作戦はどうするのだ?いくらあたしがAランクの異能騎士でもヤクザを纏めて倒すなんて無理だぞ」


「それなら作戦を考えてある。大蛇に挑むのであればどうするべきか?簡単な話だ。首を落せばいい。では作戦を伝える」


 俺はラグルヒルに作戦を伝える。ラグルヒルはまさに苦虫か何かを噛んだような顔をしていた。だがシンプルでいい作戦だ。


「じゃあ行こうか。すでにターゲットのヤクザについては調べてある。作戦開始だ」


 そしてヤクザ狩りが始まる。闇の世界のデビュー戦が今始まる。















 ニューオタル市きのすす町の繁華街。そこに立ち並ぶビル、その屋上に俺は立っていた。隣には女神がいる。ポテチを食べてコーラを飲んでいる。めちゃくちゃ観戦モードだ。


「せめてさぁポテチとかやめてくんない?匂いにイラつくからさ」


「天了様は女から漂ってくる匂いにケチをつけるのですか?わたくしはいいですが、他の方にはキモいと言われかねませんわよ」


 はらたつー。こいつはもういい。俺は左耳のイヤホン型無線機のスイッチを押してラグルヒルと通信を繋ぐ。


「準備はいいか?」


『…ああ…』


「おい。いいんだぞ?やる気がないなら」


『わかってる!準備は出来ている!だが…』


「安心しろ。今回はお前の手は汚れない。それに奴隷の手が汚れても、それは主が命じたからだ。別にお前のせいじゃない」


『…そうだな…』


 あまり元気はないようだ。面倒くさいが後で何らかの形でメンタルケアをしないといけないだろう。女を扱うのはこういうのがめんどくさいから嫌なのだ。将来的には俺の兵隊は男で揃えたいものだ。


「おっし。ターゲットがきた」


 今回のターゲットである南斗会系二次団体牙虎麟愚がとりんぐ組組長・地竜大二郎。南斗会は南極発祥の広域ヤクザ団体である。その直下には無数の組が蠢いている。牙虎麟愚組は昭和基地の反対側のこっち側に殴り込みをかけてきた武闘派ヤクザだ。だけど俺から言わせればボーイスカウトと変わらない。指落せば何でも許してくれる甘っちょろいヤクザ組織なんて俺の敵じゃないのだ。


「今日は白人系がええのぅ!」


「それでしたら北欧系のいい子が入りましたよ!」


「北欧か!滾るぜよ!」


 地竜大二郎は俺のいるビルに入っているソープランドの常連だという情報は掴んでいた。そしてそのソープランド自体が牙虎麟愚組のシノギであることも。だがそこで働いている人間がみんな必ずしもヤクザの味方とはかぎらない。この店のオーナーは牙虎麟愚組に用心棒代を貢いでいるが、内心では不満を持っているのは調査の段階で気づいていた。何でも過去に奥さんを地竜大二郎にレイプされていたらしい。面従腹背。俺はそれを知ってオーナーに近づきとりこんだ。俺は屋上からビールの中に入る。無線をオンにする。


「フリーダです。よろしくお願いいたします」


「おお!こりゃ別嬪さんやのぅ!」


 フリーダはラグルヒルのことだ。今回ソープ嬢として地竜大二郎に近づいてもらうことになった。俺はソープのあるフロアの屋根裏のダクトに忍び込む。そしてラグルヒルと地竜大二郎のいる部屋の上に向かう。


「ではシャワーをお願いいたします」


 ラグルヒルが地竜のスーツのジャケットを預かりながらそう言った。


「わしゃシャワーなしで舐めさせるんが好きぜよ」


「…っ…ですがお店の決まりなので…」


「ええからやりゃあばいたぁ!それしかのうがないんくせにぃ!」


 なんかマイクの向こう側からのやり取りが剣呑だ。本当ならシャワールームに入った瞬間に俺が屋根裏に爆弾仕掛けてぶっころすつもりだったのだが、予定変更だ。すぐに俺はダクトからフロワに出る。そして廊下を走ってラグルヒルたちがいる部屋に向かって走る。部屋の前にはヤクザたちが護衛として張っていたけど、魔力を込めた銃弾で二人を射殺して、すぐに部屋の中に駆け込む。


「タカアキ!」


「なんじゃ?!なんじゃわれぇ!!!3pなんぞたのんどらんわー!!」


 地竜大二郎はパンツ一丁だった。そして壁際にネグリジェのラグルヒルを追い詰めていた。


「何事も予定通りにはいかないな」


 俺は冷静に地竜にMP5のフルオートをぶち込む。だが。


「おんしは鉄砲玉か!たいぎいのう!流石昭和基地の反対側じゃ!!ふん!」


 地竜は何かのシールドを張って銃弾を弾き、俺の方へと走って近づいてくる。弾には魔力を込めているのに、すごい防御力だ。そして俺の首根っこを掴んで壁に叩きつける。


「ぐはっ!」


「なんじゃほっそいがきじゃのう!だがつらはきれいじゃ。決めた勿体ないから売ろう。それともおじきに献上するか?…ん?紫色の瞳…?」


 地竜が俺の瞳を覗き込んでくる。すると何かに気づいたようで、ニヤリと笑う。


「おんまえ!御能から逃げたボンボンか?!こんなところでなにしちょるんじゃ!ははは!こりゃいい土産ができたのぅ!」


「御能…?え?御能ってあの日本の軍閥の?」


 ラグルヒルが俺のことを驚いたような目で見ている。


「そうじゃ。噂じゃお家騒動があって御能宗家から逃げ出したってきとったけんどもまさか南極にいるとは!」


 噂はけっこう回っているようだ。この調子だとやっぱり懸賞金か何かがかかっている可能性は高い。


「まあうちの組もこいつを使えば上からの覚えもよくなるじゃろ。とんだ儲けもんじゃなぁ」


 首にさらに力を込められる。俺は息が出来なくなってきた。このままだとまずい。俺はチェストリグから手榴弾を取り出してそれに魔力を込めて、床に転がす。それはすぐに爆発して部屋の床が抜けて崩れ落ちた。


「よっし!抜けた!」


「がきゃああ!!」


「きゃあああ!」


 俺を掴んでいた手は放れた。そして俺たちは崩れた下の階に墜ちた。


「朕、人代に命を下さん!重力よ!加速せよ!!」


 俺は地竜大二郎をターゲットに指定して重力を強大にさせた。


「ん、なんじゃ?!」


 地竜はそのままさらに下の階へと床を貫きながら落ちていく。


「うがぁあああああああああああああああああ!!!」


そして彼は一階まで落ちていった。地竜大二郎の両手両足はぐちゃぐちゃに潰れている。俺はその上から魔力を込めた手榴弾をありったけ彼の上に落していく。


「ひ、ひぃいいい」


「大人しく死んどけ。手間かけさせんな」


 そして一階が激しい閃光と共に爆発する。ビルが激しく揺れる。このままだと崩れるだろう。もっともこのビルにはソープ店のオーナーに命じて俺たち以外の人間はすでにいないようにしてあるが。


「さ、にげるぞ」


 俺はラグルヒルを抱きかかえる。世間的にはお姫様抱っこと呼ばれるものだろう。


「ちょ、お前…!」


「はいはい。おとなしくしてろ」


 俺は窓を蹴破り、そこから思い切りジャンプして夜の街へと飛び出す。そして向かい側のビルの壁を蹴って勢いを殺して歩道に降り立つ。


「素晴らしく泥臭い戦いでしたわ。たまにはアリですわね」


 いつの間にかそばに女神がやってきていた。ほんとこいつムカつく。俺はコートをラグルヒルに着させてからタクシーを呼ぶ。そして宿へと帰った。


「さっきはその…ありがとう」


「いや別に」


 ラグルヒルがお礼を言ってきた。なにについての礼なのかよくわからなかった。


「な、なあ。お前の事情は少しは察した。御家騒動の厄介さはわかる。生き延びるためにお前が自分自身の勢力を得ようとしている事情はよくわかった」


 だからなんだというのか?それを知ったからと言ってラグルヒルの待遇がかわることなどない。


「あたしはお前を助けてやりたい」


「何言ってんだお前は?奴隷のくせに」


「あたしならお前の状況を何とかできるはずだ!実家はこれでも一国を治めている。それに東京の学園で各国の有力者の子弟とも親交を持っている」


「だから?圧力でもかけてくれるってか?」


「それだけじゃない。御能柊真しゅうま


 聞きたくない名前が出てきた。俺と同い年の分家の少年。優れた才能を持って生まれたが分家であるには強すぎる力ゆえに、その能力の大部分を封印されてしまった悲運の天才児。


「柊真とあたしは親しかった。あいつはお人好しだ。悪を憎み正義を成す好漢だ!柊真にお前のことを相談すればきっと」


「なんともならねぇよ」


 俺ははっきりと告げた。しゅんとラグルヒルは俯いてしまう。


「なんともならないよ。宗家の御家騒動は事実だ。だけどこれは俺が反逆したとか、離反したとか、金持って逃げたとか、そんな単純な話じゃない。もっと馬鹿馬鹿しい感情のもつれの話だ。御能宗家、いや当主は俺を殺したくてうずうずしてるんだよ」


 当主は最初俺の大切な女を辱めることで溜飲を下げておしまいにするつもりだったのだろう。ある意味では感情のコントロールができている。だけど俺は分家の連中を殺して飛び出した。殺さないで済ます感情的理由が当主にはもうない。対立は不可避だ。俺自身の、当主自身のせいでもないが、俺たちは殺し合う定めとなってしまった。母が目の前にいたらぶん殴ってやりたい。もっとも托卵しなきゃ俺は生まれてないあたり考えても考えても納得がいかないのも事実だが。


「ラグルヒル。世の中にはどうしようもないものもあるんだ。抗うことしかできない運命ってやつがな」


 俺はいまどんな顔をしているだろう。悲しめるならまだうれしい。だけどもう何人もの血で手を汚した後だ。俺にそんな資格はない。戦って戦って戦って王であり続けることだけが俺にできる唯一の生き方なんだから。







 その後遺った牙虎麟愚組の連中を俺とラグルヒルは殺して回った。武闘派な組長だったが、それ以外は大したことはなかった。そして彼らの持っていたシノギ、すなわち風俗店や、キャバ、クラブ、女衒、飲食店等々に対して今後は俺が仕切りることを宣言した。一応用心棒代とショバ代は牙虎麟愚組時代よりも安くしてやったので、快く受け入れてもらった。ここから俺たちの反社組織の成り上がりがはじまるのだ。

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名門魔術家に生まれたけど、無能だったので虐げられて育ちました。だけど神霊と契約して王の力を得たので復讐します。軍閥になって戦争じゃい! 万和彁了 @muteki_succubus

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