第3話 戦力ゲット

 密航し南極へとたどり着いた。エルスワースランドのニューオタル市。御能が支配する旧昭和基地側の正反対にある街だ。ここも軍閥さんが支配しているが、御能とは敵対関係にあることは確認している。


「ここが南極。神話さえない。神も知らぬ土地」


 女神は南極の街の風景に感心しているようだった。たしかにここには人類文明の痕跡は一切ない。ここに人類が到達したのは、比較的近代になってからだ。この街には様々な人種が歩いていた。白人、黒人、アジア人。それだけでなく亜人種たちも多い。きっとここが世界一多様な大陸なのだろう。


「とりあえず今日の宿に向かおう。それから行動計画を練る」


「ところであそこにあるペンギンのぬいぐるみが可愛いのですが」


「うんなもん欲しがるな!観光に来たんじゃねぇよ!」


 女神はどこまでいっても女神に過ぎないのである。






 そこそこ安くてそこそこの治安がよろしい場所に宿を借りた。


「戦力が足りない」


「ですわね」


 女神はベットに横たわって適当に茶をしばいていた。腹が立つ。


「だから戦力を手に入れようと思う」


「どうやってです」


「恥ずかしい話だが、奴隷を購入しようと思う」


 本当に人間としてどうかと思うが、奴隷を購入して戦力にする他ないと思った。ここ南極大陸では、奴隷制度がまかり通っている。


「あらそうですか。ごくごく常識的な判断ですわね」


「あー。まあ神話時代のやつの常識ならそうかー」


 女神は奴隷に忌避感を覚えていないようだ。まあ人類史では奴隷制があった時代の方が長いのだ。奴隷が当然のようにいたころに練られた神話の神ならばそんなもんだろう。


「逃げるときにある程度資金を持ってきたし、ネットバンキングの隠し口座の現金化をすればそこそこ強い奴が帰ると思う。そいつを使ってヤクザから上がりを奪ってこの街でのし上がる」


「なるほど。それは楽しみですわね」


 女神はニヤリと笑った。俺が成り上がる話には興味があるようだ。それ以外には全く興味がないし、勝手気ままだ。


「では行こうか。武器屋と奴隷市」


「はーい!デートですわね!できればペンギンフライってやつを食べてみたいのですが」


「そんな可哀そうな食べ物あるの?!い、いやだ!食いたくない!」


 南極の食生活がなんか恐ろしい。ペンギンを食べるとか業が深すぎる気がするよ。





 まずやってきたのは武器屋。


「やはり剣や杖を買うのですか?」


「そんなゲームみたいなもんは買わねぇよ」


 買うものはすでに決まっている。


「マスター。南極での武器所持はどこかの許可はいるのか?」


「おいおい!お前は素人だな!南極じゃあ赤ん坊だってベレッタ振り回して育つんだぜ!誰の許可もいりはしねぇよ!ははは!」


 だそうである。


「じゃあグロックの19とMP5SD5」


「お!SDの方をお求めとはお兄さん通だねぇ!是非見ていってくれ!」


 店主はグロック19とMP5SD5をカウンターの上に並べる。俺はそれを受け取り構えてバランスを確かめる。


「やっぱスラップしてこそのサブマシンガンだよなぁ!」


 その趣味は俺にはよくわからないが、適当に笑みで誤魔化しておく。


「じゃあ弾とセットでもらいたい」


「あいよ!ところで魔導のエンチャントはいるかい?」


「いやいい。あ、代わりに防御エンチャントを施したチェストリグをください」


「おうよ。マガジンはいっぱい入る方がいいかい?」


「そうだな。そうしてくれ」


「わかった。今持ってくる」


 店主はチェストリグをいくらか持ってくる。


「いっておきますが、わたくしはそんな野暮ったいものは着ませんからね」


「…だったらどうやって防御するんだよ」


「神霊たるわたくしをどうこうできる存在など今この星の上にいるはずもないでしょう」


 つまりこいつは防御に徹すればノーダメージなわけだ。逆に言えば俺の戦いもおそらくは傍観するつもりだろう。あくまでも観客にすぎないのだろう。


「防弾アーマーを中に入れられるタイプを用意した。エンチャントはある程度持つが、戦闘2,3回で駄目になるからそん時はうちにまた来てくれ。購入サービスで3回までは無料でエンチャントさせて貰ってる」


「ありがとう。ではいただくよ」


 俺はボディアーマー付きのチェストリグを購入。ついでに安全靴も買い、武器屋を後にした。そしてやってきたのは奴隷市。


「おいおい聞いたかジョニー!」「なんだいマイケル!?」「今日の奴隷オークションにはなんとなんと!」「なんとぉ!?」「北欧の某王国のお姫さまが出展されるそうだぜ!」「まじかよジョニー!?」


 なんかすごい噂が立っていた。どこへ行っても北欧の某王国の王女が出品されるという噂で持ちきりだった。


「そんなことあるのか?」


「おいおい素人だなぁ、なあマイケル?」


「ああそうだなジョニー!」


「勝手に俺のひとり言に絡んでくるな」


 ジョニーとマイケルが勝手に俺に絡んできた。


「ここは南極だぜ!なんだって売ってるし!」


「なんだって買える!」


「ここには正義も道徳もねぇ!」


「あるのは力だけさ!」


 それだけ言ってジョニーとマイケルは去っていった。あいつら一体何?


「興味深いですわね」


「あ?お前が興味持つとかややこしいんだけど!」


「とりあえず見ていきませんこと?気に入ったら買えばよろしいのですわ」


「そんな奴を買える金はないよ…」


 だけど女神はなんかお目目をキラキラさせている。仕方がないのでオークション会場に向かった。








 オークションの会場は市場の端にある古代ギリシア風の舞台で行われることになっていた。観客たちはそこに座って自由に落札に参加していいそうだ。出てくる奴隷のレベルは確かに高かった。捕まえた悪魔やら魔獣、高レベルの戦士など色々である。そして噂のお姫様のターンが回ってきた。


「さてお次は皆さまもすでにご存じだと思います!北欧はエーリヴァーガル王国の三王家の一つエルムト家の王女ラグルヒル・エルムト!このお姫様を出品いたします!」


 出てきたのは猿轡をかまされて両手を鎖で拘束された少女だった。ブレザータイプの学生服を着ている。というかあの服は分家のやつも通っている東京の異能学園の制服のはずなのだが。


「こちらの商品、まずは顔もスタイルもいいのはもちろんでございますが!何よりも優れた異能の使いであることが注目されるでしょう!北欧魔術の大家でもあるエルムト家の血統を受け継ぎ、その秘儀を受け継いでおります!また武道や教養なども納めておりますので傍に置いておいても飽きないことでしょう!戦わせるもよし!夜伽もよし!実験材料にしてしまうのもよいでしょう!本品はプレミアム商品ですのでDNA鑑定による血統書と病気などを持っていない各種診断書に処女証明もお付けいたします!」


「処女…?!」


 女神がピクリと反応した。そして目をがん開きで舞台の上を見ている。


「たしかに。ヴァージンのようでございますわね…うひぃ!」


 なんかキモい声がでなかった?気のせい?


「天了さま!彼女を落札しなさい!」


「無茶をいいよる」


「最低落札価格は10億南極園からです!」


「無理!絶対に買えませーん。諦めろ」


「いやですわ!あの美しい処女、じゃなかった少女を侍女に侍らせたいですわ!」


「どんな欲望?やめてよ。気持ち悪いから」


「戦力にもなりますわ!わたくしの目はその者の才を見抜く力がありますわ!あの少女はこの時代有数の使い手に育つことでしょう!」


「だからそもそも金がないんだって」


 女神には人の財布の事情がわからぬ。そうこう言っているうちに落札額はあっという間に100億園を越えてしまった。そして最終的に絵に描いたような悪徳商人っぽいおっさんに173億園で彼女は購入されてしまった。


「ふひひ。一国の王女の初物がいただけるならやすいもんよのぅ」


 勝者宣言がゲスすぎて逆に強そうに聞こえるのバグだよね。


「いやぁああああああ!あのようなゲスにあの娘の処女を散らされるなんて!わたくし耐えられませんわ!う、うげぇ!」


 女神さまはその場でゲロゲロと吐き始める。どんな想像したの?それは何のためのゲロなの?


「天了さま。奴隷なんて人道に反する外道な行い。そう思いません事?!」


「さっきまでどうでも良さそうな態度だったくせに何言ってんだお前は?」


「あの少女1人救えなくて何が王ですか!?」


「うわぁ…すがすがしい程自分中心でものを考えてやがるぅ」


 この女神、まじでクズである。だけどどうにも本気臭いのが質が悪い。俺は少しの間逡巡する。


「わかった。あいつを助ける。ただし戦闘には使うからそのつもりで」


「はい!ありがとうございます!天了さまさすが真の王でございますわ」


 誉め言葉が安い。まあいい。行動を開始しよう。俺はラグルヒルを連れていく悪徳商人たちの後ろをこっそりとつけていく。彼らは近くの駐車場までやってきて高級車に乗り込んでいった。悪徳商人の隣にラグルヒルは乗せられている。奴隷の鎖は主人である悪徳商人が持っている。護衛車両と共に車は発進していく。そこへおれが襲撃をかけた。


「朕、人代に命を下さん。空気よ。立ち去れ!」


 そう世界に向かって命じる。すると悪徳商人たちの車の周囲から空気が消え去り真空状態が出来る。まだ車の中の連中はそれに気づいていないようだ。そこへおれはMP5SD5を構えて悪徳商人たちの車のエンジンに向かて銃弾を撃つ。音はしなかった。爆発もしない。車たちは音もなく停止した。真空中では空気抵抗がないので銃弾の威力はすさまじく上がる。あれらの車も装甲で対策はしていたのであろうが、根本的に底上げされた力には敵わない。そして彼らは車から外へ出ようとする。ドアを開けた瞬間、車の中の空気が外へと勢いよく飛び出していく。それに巻き込まれて護衛たちは何の抵抗もなく吹っ飛ばされる。


「ぐあああああ!」「いったいなにがおきてる?!」「いき、が?!あああ!」


「命令解除」


 俺がそう言うと、真空だった車の一体に空気が帰っていく。さらに護衛たちは空気の渦に巻き込まれてぐちゃぐちゃに吹っ飛ばされる。ある者は近くの電柱に頭を強く叩きつけられて死に、ある者はドアのガラスに首を斬られて死んだ。それ以外は、俺が狙撃して殺した。そして護衛を片付け終わり、俺は悪徳商人の車に近づく。


「ひ、ひぃ一体何が?!」


 悪徳商人が鎖を引っ張りながら車の外へと出てくる。


「悪いね悪人さん」


 俺は悪徳商人の目の前に現れる。


「お、お前がやったのか?!」


「ああ、そうだよ。一つチャンスをくれてやる。その子と財産を今ここで俺に渡すならお前は見逃してもいい」


 どうせ悪いことをするならここで金も稼いでおきたかった。


「ふ、ふざけるな!わしは!わしは!処女を100人食うまでは死なん!いけエルムトの姫よ!その力を見せてみよ!」


「んんんんんんん”ん”んぅう!!」


 ラグルヒルがもだえ苦しみながら周囲に雪と氷、そして炎という相反したものを同時に顕現させる。それらが俺を飲みこもうと迫ってくる。


「北欧神話的な地獄のイメージかな?だけど無駄だよ。朕、人代に命を下さん。氷よ水へ返れ、そして炎よ水を受け入れ消えよ!」


 俺がそう命ずると氷の渦と炎の波は対消滅を起こして全部消えた。悪徳商人も、ラグルヒルも茫然としている。


「チャンスは一度だ。あばよ」


 俺は悪徳商人の額をグロックで撃つ。あっさりと商人は死んだ。すると奴隷紋がラグルヒルの首元で輝き始める。どうやら殉死の呪いが発動したようだ。俺はラグルヒルの首に手を添えてその呪いを消しさり彼女の傷を癒す。


「王の手には癒しの力が宿る。お見事ですわ」


 どこぞに隠れていた女神さまが出てきて拍手をしている。そしてラグルヒルを抱きかかえてその髪の匂いを嗅ぎ始める。


「かぐわかしい乙女のにほい…くぅう!」


「きっしょ?!」


 こうして俺はラグルヒルを手に入れた。


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