十月二日 十八時 水曜日 佑也

「うーーん。疲れた。」


 図書館でてすぐ体を伸ばす実里を横目に暗くなった空を見上げる。


「もうこんなに暗くなっちゃうのか。」


「そうだね…。」


 少ししんみりした感じになる。


 夏の暑さは感じ取れず、通る風は少し肌寒さを感じさせる。


 もう秋になったのだと思わされる。


 この移り変わりが人を狂わせるのだろう。


 熱かったものが冷めるのと同じく人の気持ちも。


 クリスマスまだに別れるカップルは多いと言う。


 そして、憂鬱になる人も多くいるそうだ。


 自分もその一人なんだと思う。


 心が冷たくて、冷淡で、昨日言われた言葉に何も返さなかったことも。


「何か悩み事?」


 神妙な面持ちをしていたのか、実里に聞かれて慌てて返事を返す。


「この季節が好きだなって。」


 適当に言ったことにどうしてと聞かれた。


 少し考えを巡らせて、答える。


 色んなものがものが変わるからだと思う。


 体育祭があったり、修学旅行、合唱祭。


 クラスの雰囲気が前のとは違うものに変わっていく。


 部活も三年生は勉強を頑張ろうと、二年生と一年生は新体制で動き始める。


 他のもの稲は実をつけ、葉は色を変え、動物は食べ物を肥える。


 その変化が目に見て分かるからだと、実里に答えた。


「確かに秋は食べ物美味しいからね。でも、私は冬かな。」


 先程聞き返された時同じようにどうしてと返す。


「冬は寒いから周りの人たちとの距離が縮まるから。」


 そんな発想はなかった。


 冬は寒くて、過ごしずらいのと半袖半ズボンで走る長距離を思い出して嫌になる。


 それだけと思っていた。


 彼女の人との関わりを大切にする性格ゆえの考え方だろう。


 それはいいねと答えると、でしょー。と笑っていた。


 もう暗いから帰ろかといい。図書館で反対方向に別れた。


 実里の家は学校から西側、自分の家は学校の東側にある。


 図書館は学校の西側に建っている。


 帰り際、学校の駐車場にパトカーがあることに気がついた。


 行く時は、学校から目をそらして通っていた。


 ただ帰りは意識から外れていた。


 学校の昇降口には先生と警察の人が話をしているのが見えた。


 その様子を見てダッシュでその場を後にした。


 次の時には息を切らして玄関にいた。


 リビングの方が明かりがついていて、リビングからお母さんの迎えの声が聞こえた。


「おかえり。」


 深呼吸をして急いで息を整える。


 靴を脱いでリビングに行き、


「ただいま。」


 帰ってきた合図をした。

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