第3話 ポンコツメイド、初めての依頼を受ける
どのくらいの時間が経過しただろうか。ようやく眩いばかりの光が消え去る。
「どこでしょうか、ここは……」
身構えていた姿勢を元に戻すマイ。目の前には見た事のない景色が広がっている。
アスファルトの地面もコンクリートのビル群もない、ただ荒野だけが広がる殺風景な景色が目の前にあった。
「わけが分かりませんね」
瞬きもなく丸い目を開けて軽く首を傾けるマイ。
「……なにやらデータに違和感がございますね。そういえば、なにやらメモリに手を加えるとか仰られていたような気がします」
冷静になると同時に、自分の中に違和感を感じたマイ。早速自分の中に記録されているデータを検索する。
左手を耳の辺りに当てて、軽く捻るマイ。同時に目を閉じて、自分の中のデータを参照する。
「……未確認の大量のデータを発見。確認致します」
独り言をぶつぶつというマイ。幸い周りには誰もいなかった。
「確認完了、精査致します。どうやら、私の体は電気ではなく、大気中のマナと呼ばれる物質を動力として使うように改造されているようですね」
自分の体の状態と動作を確認するマイ。自分の体にある電池残量の項目がマナ残量に変更されていることに気が付いた。マナ残量は休憩や休息と取ることで回復できるようだ。
「それにしても、なんでしょうか。スキルや魔法というよく分からない項目が付与されているのですけれど……」
未確認データのひとつに困惑気味のマイ。しかし、高性能AIを搭載するマイは止まることを知らなかった。分からなければ検索である。
自分の中にある膨大なデータベースを片っ端から検索に掛け、分からないことを一つ一つ潰していく。それにより、今居る場所がどこかということまですべてしっかりと把握することができた。この間、一時間もかかっていなかった。
「あちらに街があるようですね。この世界の事はよく分かりませんので、データベース以外からも情報収集と参りましょう」
マイは街へと向けて歩き始めたのだった。
そうやってやって来た異世界最初の街。
「たしか、メハジといいましたかね。『はじめ』を並び替えただけの捻りのない名前ですね」
街の入口を眺めながら、ぼそりと呟くマイ。
改めて街の中へと入ろうとすると、入口で門番に止められる。
「おい、そこのメイド。止まるんだな」
「はあ、なんでしょうか」
止まれと言われたのでおとなしく止まるマイ。
「街に入るための許可証、住民カードってのはあるか?」
「ちょっとお待ち下さい」
よく分からない単語が出てきたのですぐに調べるマイ。その結果、この世界では出生や経歴を把握するために個人の魔力を宿したカードを作るということが分かった。
ただ、そのカードを作る上で、マイには決してできない項目があった。
『血を一滴垂らして登録する』
メイドロイドであるマイには血が通っていない。そもそも無理である。
どうしたものかと自分の体を触っていたところ、エプロンの中に何やら覚えのない感触を感じた。
何かと思って引っ張り出すと、カードのようなものが出てきた。
「なんだ、持ってるじゃないか。そこの水晶にかざしてくれ。青く光れば中に入れるからよ」
「はい、畏まりました」
何がなんだか分からないうちに、話が進んでいく。
水晶にカードをかざすと青く光ったために、マイは無事にメハジの街の中へと入ることができた。
街に入ったマイは、その景色に驚く。自分が生まれた国とは違い、建物の階層は低く、木や泥で作られた家屋が目の前に建ち並んでいた。
どうやら文明的には遅れている世界のようだ。
「さて、ろくに事情も聞かされずにこの世界にやって来ましたが、どうしたらよろしいでしょうかね」
ある程度の情報は確認したのだが、実際に暮らしていくとなると分からないことが多い。マイは道行く人に話しかけながら指針を考えることとした。
その結果、路銀もないのなら冒険者ギルドで依頼をこなせばいいということになった。
そうやってやってきた冒険者ギルド。メイド服のマイはどう見ても場違いっぽい感じだが、周りの人間たちじろじろ見るばかりで絡んではこなかった。
「すみません、ちょっとよろしいでしょうか」
「はい、こちらは初めてのようですね」
マイの顔を見るなり微笑みかけてくる女性。
「お金がないので何か依頼をこなしたいと思うのですが、何かいい仕事はございますでしょうか」
「は、はあ。ギルドカードか住民カードを見せて頂けますでしょうか」
「畏まりました」
先程街に入るのに使ったカードを取り出し、女性に手渡すマイ。
「どうやら履歴はないようですね。でしたら、まずは冒険者ギルドを含めた仕組みを説明させて頂きます。理解されていませんといろいろ問題が起きる可能性がございますので」
「それは助かります。よろしくお願い致します」
マイの丁寧な返事に、女性は安心して話を始める。
長い話になったものの、マイはそれにまったく動じることなくおとなしく話を聞いていた。
「了解しました。気をつけます」
話を聞き終わったマイは淡々と反応をしていた。驚くくらい冷静な反応に、逆に女性の方が驚くくらいである。
「説明の中でもしましたが、初めての方は戦闘経験がないので採取系の依頼をこなして頂くことになりますが、よろしいでしょうか」
「構いません。よろしくお願いします」
マイは頭を下げて冒険者ギルドを出ていく。
(やりました、この世界で初めてのお仕事です。『薬草採取』、この依頼、必ずや成し遂げてみせましょう)
マイは意気揚々と街の外へと歩いていくのだった。
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