約束の場所

 二人で近くの海へ行った日、君は砂浜に寝転がって夜が好きだと言った。星が綺麗だからとも。その時、私は星になりたいと君に言った。君に綺麗だと言ってもらえるなら無数にある星の一つだってかまわない。と。私自身その言葉の意味を深く考えて言ったわけではないと思う。実際に、私はその言葉の真意を今となっても探しているから。そんなちょっとした冗談に君は怒ったような顔をした。


沙希さきは俺にとっては月みたいなものだよ」


「どういうこと?」


「月を見ていると周りの星が見えなくなる」


「よくわからないね」


 その言葉は今でも簡単に思い出せる。ロマンチストぶっていて、それでもしっかりと私の心を楽しませる言葉を使う。君の言葉は星のように私の心に残っていつでも輝いていた。


 海風が吹いた。私と君だけがいる砂浜を悠々と踊り舞う。


「私は夜の海が好き」


 君が好きなものを語ったのなら次は私の番だ。


「果てまで暗い海は全てを呑み込んでくれそうな気がするから」


「沙希は可愛いのにポエムチックなこと言うね」


「可愛い子にポエムは似合わない?」


「そんなわけないさ」


 私たちは文学が好きという訳ではなかった。どちらかと言えば歴史が好きで、哲学が好きで、見通すことのできない未来が好きだった。

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