神友に吹く影法師

いすみ 静江

はじめに

 ◆あらすじ


 情報屋のKouコウは、何でも屋のAyaアヤの前に雨の日しか現れない。

 土砂降りの中、二人はパリに降り立った。

 モンマルトルにきっと神友しんゆうがいると踏んで緑の家を買った。

 AyaはKouと瀟洒なお屋敷で一緒に暮らす夢が叶ったと喜々とする。

 ターキーなどでお祝いをした。

 それに葉書で誘ってくれた神友の土方ひじかたむくも絵を描く為に暮らしていると踏んだ。


 楽しくて眠れないAyaは初めて隣のベッドで眠るKouに頭を撫でて貰った。

 しかし幸せは一晩で崩れ、衝撃は稲妻の如く走った。

 翌朝、彼が居なかった。


 Ayaは必死で家を庭をモンマルトルを捜しても見つからないので、むくの家を訪ねる。

 Kouの不在を確かめると去って行った。

 しかし、むくが『眠りの乙女』をイーゼルに置くとKouが現れた。

 驚くことに初めてのキスを捧げることとなる。

 これを切っ掛けにむくはKouへの恋情を募らせて行く。

 キスの味ではなく、選ばれた気持ちが嬉しかったのか。


 自宅にむくの毛髪を確認したAyaは複雑な心境になった。

 憎む気持ちにはなれないけれども、距離を置きたくなる。

 孤独だったAyaにはむくの存在が重かった。


 所が、Kouは雨の日にも会えなくなった。

 モンマルトルが濡れる夜にむくはKouの本当の気持ちを探している。

 Ayaはむくを恨まないけれども羨ましいとその日は帰宅して行った。

 いつかはこの家に帰って来ると。


 むくはせいが不確定で悩む病だったがおんなとなった。

 晴れた日、十六歳になるとむくはKouと結婚する。

 写真館でウエディングドレス姿になった。

 撮影を両親が見守る。

 むくはAyaを呼べる筈がない。

 けれども見守ってくれた。

 彼女が泣いていたのを垣間見る。


 Ayaにはむくの存在が重いが、神友を憎む気持ちはない。

 だが距離を置かざるを得ない。

 KouとAyaは兄妹だから何時まで経っても平行線だ。


 Kouを介さずAyaに依頼が舞い込む。

 ドクター土方の娘の絵『眠りの乙女』を盗むようにと。

 Ayaとむくが草原に休んでいる想い出の絵で煩悶する。

 しかし、遂行するとKouが帰って来るとの第六感があった。

 むくの枕元にある絵の前でたじろぐ。

 起き上がったむくは遊びに来たAyaにお味噌汁を出す。


 二人で愛したKouについて語り明かす。

 やはり神友だと心から思う。

 雷雨に驚き窓を閉めようとしたとき、濡れ鼠となったKouが現れた。

 和やかに朝の食卓を囲むが彼だけ食べずに微笑む。


『眠りの乙女』の依頼人は今は亡きKouだ。


 ◆登場人物


 Ayaアヤ:女性。二十歳

 Kouからの依頼を受ける何でも屋でスナイパーだ。『Aya』というコードネームだけで生きてきた。水木みずき亜弥あや、アヤ・リー、アヤ・シュバルツ。本名は知れない。シュヴァルツ・ドラッヘと刻印を母が遺した銃がある。富有とみありうさぎ或いはゾフィア・ハーゼがAyaの本当の母の名前で、父はルイス=ハーゼだ。Kouの腹違いの妹とは知らず、想いを寄せていた。無理を言いKouに結婚を申し込んだ。スープが大好き。


 Kouコウ:男性。二十二歳

 情報屋だ。コードネームは『Kou』。河合かわいこうという名も本当か分からない。Ayaに仕事を依頼する役が殆どだ。Ayaを守るのに武器はペンだと主張する。エミリア・バッハ或いは小川おがわえみりあが本当の母の名前で、父はルイス=ハーゼだ。つまり、Ayaの腹違いの兄となる。形だけでもと結婚指輪を買ったり一緒に暮らしたりしたが、突然居なくなる。出逢うときはいつも雨と決まっていたが、結婚してからはそれが崩れたのか。Aya以外と親密になったのは、むくが初めて。理由は可愛いと思ったから、Ayaから逃げたいからだ。理性は高い方だが、計算でむくにキスをする。案の定、むくの友愛が恋情に変わって来た。むくが十六になったら妻になるようにと俺様になっていた姿は珍しい。パスポートに異変があり、税関で捕まる。


 土方ひじかたむく:女性。十五歳

 せいが不確定な病気だったむくは、一人称が『むく』だった。しかし、AyaやKouとの事件を通じて自己が統一され、一人称が『おんな』となる。青春を芸術で生きている。徳川学園とくがわがくえん高等部一年生だが、今はパリへスケッチ旅行へ来ている。ファーストキスをKouに捧げて、最初は怒ったけれども、恋のときめきを覚え始める。結婚もAyaに悪いと思いながらも幸せになりたい気持ちも払拭できなかった。自作の絵画をAyaに狙われるが、上げてもいいと思っていた。ウエディングドレスを着たときは嬉しくて眼から真珠が零れ落ちた。


 土方ひじかたれい:男性。三十六歳。

 むくの父。医師をしている。玲がドイツででむくの診察をしていたが、いざ一人旅をさせると心配になり、パリにも来た。日本でむくの結婚を認める。Kouを殴ってやりたい。


 土方ひじかた美舞みまい:女性。三十七歳

 むくの母。武道に長けている。父には母も付いて来る。むくの意思を尊重する。

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