第546話 史上最悪のプレイヤーを発見します

   ◆◇Sight:三人称◇◆




 目のつり上がった男が、厭らしく笑う。


「やっぱり、この惑星だと犯罪をしても、BANされないのか!」


 男の足元には、一人の女性が転がっていた。

 女性はまだ息があるようだ。


「殺しはしねぇよ、それどころか今から気持ちよくしてやる」


 男が厭らしく笑った。


 男は手にしている黄金の剣に付着した、女性の血を舐め取る。

 そうして女性が、手にしていた黒曜石のナイフを震えながら持ち上げようとしたので、蹴り飛ばす。

 そうして、黒曜石のナイフに黄金の剣を叩きつける。


 甲高い音とともにバラバラに砕ける、黒曜石のナイフ。

 

「どいつもこいつも石や木の武器を使っているこんな時に、俺は既に青銅の武器だ! 早くも青銅を手にした俺には、誰にも勝てねぇ。――クックック。この青銅の剣さえあれば、何もかも俺の自由だ。力こそ正義だ! クックック、アハハハハハ」


 男が月に欲望を吠える。


「この力で俺が、プレイヤー共を支配してやる! ここに俺の王国を築いて、女プレイヤーを全て奴隷にしてやる!」


 男が女性の服を、青銅の剣で引き裂きながら舌なめずりをする。


「まずは仲間が必要だな。女を捕まえて餌にすれば、男なんか簡単に釣れるだろう」


 男は女性の悲鳴をBGMに楽しむように笑いながら、彼女の服を破いていく。


「今こそ、我が世の春だ」




◆◇Sight:鈴咲 涼姫◇◆




「そろそろ船を作る?」

「ですね。11人が全員乗れるのは無理だと思いますが」

「ていうかさ〖飛行〗が使えなくてもさ、リイムは一人くらいなら人を乗っけて飛べるから、全員を順番に運んでもらっても良いんじゃない?」


 アリスが、ぽんと手を叩いた。


「船、要らないですね」


 そこにリあンさんが降りてくる。


「東の方にプレイヤーの大きな集落が出来てたわ。なんかガラの悪そうな連中がたむろしてて、金色の武器持ってた」

「金色――青銅でしょうか――金は柔らかすぎて、武器に向かないですし」


 私が顎に手を当て、考える仕草で言うと、リあンさんが首を傾げる。


「青銅? 青銅は青色でしょ?」

「いえ、青色は青銅が錆びた状態の色なんです――青銅は錆びる前は銅みたいな色なんですよ。銅にスズを加えるほど、より金色に近くなります」

「マジか・・・紛らわしい名前してるのねぇ」


 私とリあンさんが話ていると、さくらくんが寄ってきた。


「スウさん、そこの集落に関してちょっと気になる事が」

「え?」

「なんだか、檻が沢山あって、女性が囚われていた気がするんですよ」


 さくらくんが物凄く嫌そうな顔になる・・・・何かを思い出しているのかも知れない。

 私はさくらくんに「大丈夫?」と尋ねた。


「いえ、全然大丈夫ですよ」

「そっか、無理しないでね」

「はい。ありがとうございます」

「にしても、犯罪だよね? なんでBANにならないの?」

「わかりません、この惑星の中で起こっていることは、連合に見えてないのかも知れません」

「・・・それ、ガチのPKというか――殺人ができるかもしれないってこと?」

「可能性はあります」

「どの方角?」

「あっちです」


 さくらくんが、北東を指す。


「ちょっと見てくる」

「行くんですか!? き、気をつけてくださいよ!?」

「大丈夫。女性が居たら、〖テレパシー〗を送ってみるだけだから」

「――なるほどです。でも本当に気をつけてくださいね、弓とか持ってるかも知れませんし」

「スウ、俺も行くか?」


 オックスさんが立ち上がった。


「大丈夫です。戦闘とかするつもりはないんで、危なそうだったら帰ってきます」

「そうか――分かった。どんな状態だったか、戻ったら教えてくれ」

「はい」


 私は〖飛行〗で北東に飛んだ。


「〖マッピング〗。確かに沢山の点が動いてるなあ――あと、人間っぽい動きなのに、赤点になってる・・・・なにこれ、人間だけどモンスター扱いなの?」


 私は、集落にそこそこ近寄って〖透視〗を使ってみる。

 弓を持ってる人はいるけど、空を警戒している人は居なかったので余裕だった。


「本当に女の人が、檻の中にいるじゃん・・・」


 ちょっと〖テレパシー〗で話しかけてみよう。


(あの、これはテレパシーで話しかけてます)

(え――!?)

(声は出さないで下さい、あとテレパシーがあったとか絶対に誰にも言わないでください)

(その・・・これは一体!?)

(なぜ檻に入ってるんですか? どういう状況ですか?)

(た、助けてくれるの!?)

(そう答えるということは、貴女は助けを求めているという判断で良いですか?)

(うん! お願い助けて! 毎日毎日ここの男どもに・・・・! 私の友達も捕まって・・・)


 そこからは、言葉にならない叫びと泣き声だった。


(分かりました、落ち着いてください! 必ず助けに行きますから!)

(ありがとう・・・・、本当にありがとう・・・・!)

(それで、相手は何人くらいですか?)

(男が40人くらい居るわ。それより、貴女黒曜石の武器とかでここに来ようとしてない? 絶対に勝てないから気をつけて、一発で砕かれるわよ!)

(もしかして、相手は金色の武器を持ってますか? 銅みたいだけど、より金に近い光沢の武器)

(な、なぜ分かるの!?)

(―――やっぱり、青銅の武器を持ってるんですね――すみません、ちょっとだけ待ってください。仲間と相談して来ます)


 まあ、黒曜石も切れ味は怖いけども。

 アイツ、砕くと刃が単分子になるんだよね(ガチの単分子ソード)。地球でもメスに使われてる。

 これをメープルちゃんに教えたら、黒曜石で矢を作ってた。

 手を切っちゃったみたいなので〖再生〗したら「黒曜石、怖いですね・・・」って言ってた。

 すぐ砕けるんで、使い所だけどねぇ。


(貴女の仲間は何人くらいいるの?)

(私含め11人と1匹です――小学生がいるんで、二人は連れてこれませんけど)

(9人!? 相手は青銅の武器を持った男が40人よ!? 大丈夫なの!?)

(大丈夫だと思います。こっちには鉄と鋼の武器が有るので)

(て、鉄と鋼―――!? この惑星でもうそんな物を作ったの!? どうやって!)

(頑張りました――じゃあ、ちょっと仲間と相談してきます)

(う、うん、お願い。開放してくれたら私達も戦うから・・・!)


 拠点の中央広場に戻ると、みんなが焚き火を囲んで恐竜肉を食べていた。


 私のお風呂を覗いた上に、ドラゴンでMPKまでしてくれた3人組も肉にかぶり付いている。

 この3人組は昨日から何度も「ご相伴を預かりに」とか言って、この拠点に来るようになった。

 食料に困っていたらしい。


 オックスさん、さくらくん、リあンさんやコハクさん、星ノ空さんと仲良くなってる。

 まあ、彼ら面倒見も良くて、綾麻兄妹の面倒を見てくれるからいいけども。


 IDはΩオームアムア、アルティMateメイト、パトリおっとという、なんか全員ダジャレっぽいIDだった。


「鶏みてぇ(笑)」

「硬ぇ(笑)」

「でもウメェ」


 とか言ってこっちを見た。

 とりあえず、私を見るたび鼻の下を伸ばすのを止めて欲しい。

 なにを思い出してるのか分かるから・・・。

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