第522話 幼女ます


 私は陽真里ちゃんの頭を撫でながら、更に離岸流に巻き込まれた時の対処も教えておく。


 陽真里ちゃんのお母さんも、真剣な顔で聴いていた。


 お母さんが、陽真里ちゃんに念を押す。


「ちゃんと憶えておくのよ?」

「うん」


 お母さんに頷いた陽真里ちゃんが、私の言ったこと復唱したので、私は物覚えの良い陽真里ちゃんの頭をさらに撫でて「陽真里ちゃんは頭いいから、もう大丈夫だね」と褒めた。

 すると、陽真里ちゃんが照れくさそうにはにかむ。

 く゛あ゛ー、くぁいい。


「涼姫、10分ほど行った場所に交番が」

「ひっ――アリス、今の私に邪な気持ちなんて一欠片も!!」

「いえ、サメが出たって言いにいきましょう」

「あ、そっか。でも、スマホでよくない?」

「――むむっ、確かにそうですね」


 するとアリスはさっさとスマホを取り出して、警察にサメが出たと報告した。


 私は濡れ鼠な天パをアリスが借りてくれたバスタオルでしっかり拭いた後、グシグシと手ぐしで梳かす。ギシギシして痛い。

 これはボサボサになるなあ――ギシギシは乾いてから〖洗う〗で消えるだろうけど、天パの髪は、爆発したみたいになるかも。

 爆発頭で電車に乗るのは嫌だなあ。


 ヘアゴム、誰か貸してくれるかな?


「鈴咲さん、ブラシ貸そうか?」

「あっ、ありがと」


 クラスメイトの女の子が学校指定のバッグからブラシを出してきたので借りる。私も一応〈時空倉庫の鍵〉の中にブラシとかを用意してるんだけどね。

 女子だし――女子だし。


「――うー、髪がギシギシする。シャワーを浴びたいよぉ。髪も梳かしたいし、ベタベタして気持ち悪いし〖洗う〗――ちょっとマシになったかな」


 私が〖パイロキネシス〗と〖空気砲〗で手からドライヤーを放ちながらブラシで髪を整えていると、アリスがスマホを仕舞いながら考える仕草になる。


「みずきが居れば、シャワーを出してもらえるんですけどねぇ――にしても、涼姫はスキルをまたぞろ妙な使い方してますね」

「マイルズに『どんなスキルも使い方だ』って言われてね、前よりさらに色々考えるようになったんだ。――あー、確かにみずきがいればシャワー貰えたかあ。私が生み出せるのは固体だけだからなあ、作れても氷だよ――〖温泉〗出そうかなあ。フェアリーさんを呼ぼうかなあ」


 いや、酸素は作れないから氷すら作れないんだけども。


 言っていると、サーファーの男性が私に寄ってきた。


「そこのドライブインが、シャワーを貸してくれるって」

「本当ですか!? 助かります!!」


 アリスが白い建物を見やる。


「わたし、あそこ入ったことなんいんですよねぇ。学校の眼の前なのに」

「私も――よく行列できてるし、料理、美味しいらしいよ」


 すると入ったことが有るらしいサーファーの男性がニヤリとする。


「美味いぞ。ハワイアン風で1枚のお皿に色々乗っけてくれるから楽しいし」

「へええ」


 ハワイアン料理、なにそれ美味しそう。

 いっつもお客さん一杯だもんね。結構有名なお店らしいし。


「ハワイアン――ロコモコあるかな」

「あるある」


 一枚皿料理って、なんであんなに美味しそうに視えるんだろう。不思議。

 思いながらお店に入ると、店員さんが私をシャワー室に案内してくれた。


 お礼を言いながらシャワー室に入って体を洗っていると、陽真里ちゃんまで入ってきたんで、綺麗に洗ってあげた。


 え、通報!? 女の子が女の子を洗うの問題ないよ!?


 ――描写!? しないよ!?


 シャワーから出るとドライブインの店員さんが、お持ち帰りのパックを無料で包んでくれた。こちらは1枚プレートじゃなくてお弁当みたいな感じだったけど、ご飯にはちゃんとおかずが被ってて、オン・ザ・ライス!

 ―――本当に美味しかったです。

 今度、ロコモコを食べにこよー。




 シャワー室から出ると、パトカーが来ていた。

 私は一瞬、誰かに私を不審者だと通報されたかとビビったけど。


 単にサーファーの男性と一緒に、サメ被害とかで事情聴取された。


 今回は見ていた人やアリスや陽真里ちゃんのお母さんの証言、あとサーファーの男性が手短にわかりやすく説明してくれたので、私の負担がほぼ無かった。

 その後、新しいクラスの担任の先生も呼び出されて、


「クラス替えの時鈴咲さんは人気でなあ、受け持ちたいって言う先生が一杯いたんだ。だけど鈴咲さんの前の担任に、鈴咲さんを受け持つと大変ですよ。って言われたんだけど、こういう事だったんだなあ」


 と、困ったように笑っていた。

 いえ多分、前の担任の先生は私の『ATフィールド』の事を言ってるんだと思いますよ・・・・?

 しかし、クラス替えを先生が決めてるんだと知った私は「じゃあアリスとフーリを、私と一緒のクラスにしてくれたのは先生なんですか、ありがとうございます! ――でも、チグやカレン、みかんも一緒にしてほしかったなあ」と言った。

 すると先生は「来年な」と苦笑してた。


 後日、私とサーファーの男性は警察に「お手柄」と表彰された。

 このせいで、私はさらに学校で有名になり、後輩の女子生徒にまで告白されるようになった。

 でも、生態系に逆らうレベルは、私にはまだ早いと思うんだ。


 あと乙女の秘密を見た男性諸氏の記憶は〖サイコメトリー〗で刈り取っておきました。


「〖サイコメトリー〗――『記憶を刈りる形をしてるだろ?』」

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