第18話 夢
夜、食卓を囲んでいると、サルビアが言った。
「もうすぐ、
そう。9月7日は俺の二十歳の誕生日だ。
生誕記念日と言われると大げさだが⋯⋯
「二十歳の誕生日なら盛大にお祝いしなくちゃ! 何して欲しい? 一つくらいなら何でも願いを叶えてあげるわよ?」
何でも一つだけ願いを叶えてもらえる⋯⋯
エリカはさらっと言ったが、どう活用するか⋯⋯
「まずは願いを十個に増やすというお願いになるかと⋯⋯悪魔の常識です⋯⋯」
俺の心の声が聞こえたかのように、サルビアは言った。
「そして、その内の一個を俺に譲渡する。それが俺の常識」
なぜか食卓の近くに浮いているジギタリスが言う。
「あんたは出禁の意味を理解していないようね?」
エリカは立ち上がってジギタリスを指さす。
「この世界は誰のものでもないんだから。この座標に浮かぶ権利が俺にはある。俺がたまたま行きたかった座標がエリカちゃんの隣だっただけ」
ジギタリスは相変わらず自由な持論を展開する。
「人の家に勝手に入る権利はないの! それが人間の常識なの!」
エリカは怒っているが、ジギタリスは嬉しそうに小首を傾げてエリカを見ている。
「おい。エリカにつきまとうのはやめろよ」
俺も立ち上がって加勢する。
「あなたにだけは言われたく無いんだけど」
「⋯⋯⋯⋯」
ジギタリスは冷たい声で、冷たい目で、言い放った。
心当たりがありすぎて、そのまま黙って座るしかなかった。
こいつは俺の想像よりもずっと前からエリカを狙っていたのかもしれない。
「まぁいいや。俺はいつでもエリカちゃんの声を感じてるからね」
ジギタリスはそう言い残して消えていった。
「やっぱりあいつが断トツでやばいわ。私の周りをうろつくって言うなら人間のルールに従いなさいよ! 盗聴は犯罪なんですけど? ねぇ? 聞こえてるんでしょ!」
エリカは辺りを見回しながら叫んでいた。
サルビアが言うには、ジギタリスの能力は分解で、その名の通り自分の身体を空気中の粒子レベルの細かさに自由に分解し、再び形成することができる。
その能力でいきなり任意の場所に現れたり、身体の一部を配置した地点の感覚を拾ったりできるようだ。
隠密行動向きの能力のため、世界を壊すことは難しそうだが、上手く使えば何ができるのかはわからない。
底知れない力だ。
「話を戻すが、お願いに関してはもう少し考えてもいいか?」
「もちろん!」
こうしてエリカに誕生日を祝ってもらえることになった。
誕生日の一週間前、エリカは再び俺の願いを確認しに来てくれた。
「俺の誕生日も良いが、エリカのお祝いもしないとな」
エリカが無事に高卒認定試験をパスしたので、俺の頭の中は自分の誕生日そっちのけで、エリカのお祝いの計画を立てようとしていた。
「それは嬉しいけど、今はレンの話でしょ? どうしたいの?」
「そうだな。じゃあ誕生日は一日俺の希望を聞いてくれないか?」
サルビアは願いを十個に増やすことが悪魔の常識だと言ったが、俺の願いはそれ以上なのかもしれない。
「いいわよ。じゃあまずは聞き取り調査からね」
エリカは俺の希望をメモし始めた。
誕生日当日の朝。
俺は自分の部屋の布団で寝ていた。
寝ていたと言っても、実際は今日が楽しみすぎて寝不足だ。
――コンコン
「レン起きて〜!」
エリカが部屋に入ってきた。
カーテンを開けて、布団をはがしてくれる。
「おはよう。エリカ」
これが俺の希望の一つ目、エリカに朝起こしてもらうこと。
次にエリカは俺のハンガーラックと衣装ケースを開ける。
「うーん。これとこれかな!」
エリカは今日俺が着る服を選んでくれた。
朝食はパンとエリカが淹れてくれたコーヒーだった。
昼食はエリカにお任せした。
ホワイトとブラウンの2色のソースのオムライスを作ってくれた。
俺が好きなマッシュルームが入っていた。
そして夜⋯⋯
「レン! おめでとう!」
エリカはバースデーケーキを出してくれた。
市販のスポンジにエリカがクリームやお菓子をかわいくデコレーションしてくれたらしい。
2と0の形のろうそくが刺さっている。
ろうそくの火を消した後、スマホで写真を撮らせてもらった。
これは待ち受け画像に確定だ。
他にも食卓には俺の好きなメニューがずらりと並んでいる。
唐揚げや卵焼き、根菜の煮物、エビとブロッコリーのサラダに、他にも色々⋯⋯
「エリカ、ありがとうな。大変だっただろ?」
エリカが俺のためにここまでしてくれたことが嬉しかった。
「これくらい当然よ! レンにはいつも色々楽しいところに連れてってもらってるし」
エリカは笑顔で言ってくれた。
「本当に大満足だ。ありがとうな」
嬉しくて何度でもお礼を言いたかった。
エリカは俺の希望を全部叶えてくれた。
「まぁ、レンはいつも頑張ってるから、もう少しサービスしてあげるわよ」
エリカは左手で頬杖を付きながら、右手にフォークを持ち、ケーキをすくって俺の口元に持ってきた。
差し出されたケーキにかぶりつく。
なんなんだ、この贅沢な時間は。
「ふふっ。これは癖になるわね」
エリカは嬉しそうに笑うとまたケーキをすくって食べさせてくれた。
エリカはエサやりが好きなんだろう。
羊の時はさすがに怖がっていたが⋯⋯
結局エリカは最後の一口までケーキを食べさせてくれた。
甘いケーキを食べた後、さすがに後片付けは一緒にしようと二人で流しに立っていた。
エリカは片付けも自分がやると言ったが、お願いの効力を振りかざして今に至る。
「試験も受かったことだし、これからどうするんだ?」
エリカは進学か就職か決めたのか、俺は気になっていた。
「色々考えてたけど、今日決めた。私、料理の仕事にする!」
エリカは笑顔で答えた。
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