第11章 殺人
家に帰ってきてから5日が経った。
外では黒雲が不穏な空気を募らせている。俺はマントを着たままでの動きに慣れるために、家の壁にホールを突き刺したり、ナイフを腰から出して突き刺したりを繰り返している。
マントは少し翻るため、動くのは意外と難しかった。しかし着実に速度と精度はましていった。その矢先だった。警察が俺の家の捜索に来たのだ。俺は、急いでドアの後ろに隠れた。
……何故こんな時に警察が…そうか、俺が行方不明になったからか。この世界でなく、ボイドの世界に行ってしまったがための不具合だ。
ケトラーはなんて言ってたっけ。「人が来たら殺せばいい」そうだった。でも俺にはできない。人を殺すほどの強さなんて…「お前は人を殺すだけの技術を身に着けている。」そうだった。でも……
俺は気付いてしまった、人を殺したくなくて必死に言い訳を考えていることを。それでも闇騎士になると決めたのは俺だ。この覚悟があってだ。
しかし、どうしてみ心に揺らぎはあった。人を殺したくはなかった。警察は家に入った。俺は息を潜めた。
「何回見てもやはり、一瞬でどこかに消えてしまったかのようだ。」
「馬鹿野郎、だからこうやって何回も捜索するんだろうが。」
「まあふたりとも落ち着けって。この地道な作業が事件解決に繋がるかも知れないだろう。」
どうやら警察は3人のようだ。ドアを閉めて俺がいる部屋に来た。俺は覚悟を決めてポケットからナイフを取り出した。
「来た」
俺は暗い部屋の闇に紛れて姿をくらまし、1人目の警察の胸を突き刺し、すぐさま左に振り飛ばした。と同時に2人目の警察が拳銃を構えた。
俺はホールを引き抜き、左に構えたまま、スピードを上げた。拳銃の先の動きが徐々にこちらについていけなくなってきたことを確認し、ホールで警察の心臓を貫いた。
2人目の警察は、静かに倒れていった。最後に残った警察は拳銃をこちらに向けているが、明らかに怯えていた。
俺がホールを構えると警察は逃げ出した。俺はホールをしまうと同時に、急接近して後ろに回り、足を引っ掛けて倒した。その警察の上にまたがり、首にナイフをそっと近づけた。
「許してくれ、このことは誰にも言わない。頼むから、命だけは…」
「此処まで来て命乞いか。」
俺は悩んだ。ただどちらにしろこの家はいずれ警察に攻め込まれるだろう。ここで戦えば流石に数の暴力で押される。
「そこを離れるな。動いたらナイフで刺す。」
「は、はい。」
俺は彼の返事を確認すると、その場から離れホールを静かに死体から抜き取り、言った。俺は、2つの死体を指さして言った。
「こいつらを持っていけ。逃がしてやる。」
彼は依然として表情を変えなかったが、すぐさま死体を抱えて、家を出ていこうとした。俺は引き止めた。
「待て、一つ教えてやろう。俺の名前は千葉快斗だ。」
彼は俺と琉の関係を知っているわけではなかったそうだが、頷いてその場を離れた。
俺は飛び散った血を拭き取って、家をいつもの状態に戻した。琉は分かってくれるだろうか、俺のことを。
敵に自分の存在をあえて知らせる俺はどうかしてるだろうかと思ったが、過去のことを考えても変わらないだろう。俺は家の掃除を済ませると、テレビをつけた。
「速報です。先日行方不明となっていた千葉快斗により、闇騎士捜査班の2人が殺されました。彼の家に現在闇騎士捜査班長である秋田班長含む5人らが向かっているということです。速報が入り次第、お伝えします。」
もう速報としてこの話が伝わったらしい。まだあれから1時間しか経っていないのに。社会の行動速度に感心しつつも、俺はこれからを考えた。
もう少ししたら俺と琉は対峙するだろう。そうしてまずは話し合いが始まるが、はたして俺を分かってくれるだろうか。友情は時に嘘を作る。
あいつが俺と名乗る別人だと判断した場合、あいつは俺を敵視する。当然のことだ。そうなった場合、この狭い空間では数の暴力に押され戦うことはできないだろう。
もし俺とわかってくれたとしても、俺は嘘を付くことになる。人を殺めるという、極悪非道の行為をやってのけたのだ。
昔のような生ぬるい関係ではない。そして第一、奴は人間のトップであり、俺は闇騎士のトップだ。まだ戦いの予兆すらもないのにいきなり火花を上げる必要はない。
しないほうがいいだろう。となったら、俺はボイドに身を隠したほうが、行方不明のままでいい。
俺は行ってみたかったボイドコンピューターに行くことにした。コンピューターというワードを頭に浮かばせながら静かに言った。
『黒い世界の白き掟に忠誠を誓う』
やがて琉が快斗の家に到着した。
その時には、もう快斗は闇に消えていた。
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