薄給の夫を支えるためにパートを探したら、週3で魔王やる事になりました!〜夕飯の仕度があるので、きっちり定時で上がらせていただきます!〜

宇部 松清

第1話 主婦、魔王の求人を見つける

「えっ」


 パートを探している私の目に飛び込んできたのは、一枚の求人募集。大型ショッピングモールの中、トイレに向かう細い通路の壁に貼り出されている求人コーナーの中にそれはあった。


『あなたのその力、魔王城で活かしてみませんか?』


 これ自体は別に不思議でも何でもない。何せここは大魔王様が統べる魔物の国。人間達は『魔界』なんて呼んでいるけれど、実際は『イヴルタニア』という名の国だ。


 ここはその、イヴルタニアの王都。

 王都で一番大きなショッピングモール、イーヴルモールである。

 私がここに来た目的はショッピングではない。光熱費を浮かせるのと、それから、この求人コーナーだ。お昼だってフードコートで安く済ませるつもりである。


 私が働き口を探している理由はただ一つ、旦那が薄給だからだ。旦那の前の勤め先がとんでもないブラックだったのである。それで身体を壊してしまったため、転職をしたのだが、今度はお給料がガクッと下がってしまったと、そういうわけだ。


 とはいえ、環境は良くなったし、下がってしまった分は私が働けば良いのでは? ということになったのである。


 モール内の求人コーナーだから、まぁ当然のように、このモール内の求人ばかりだ。モール内のお店だったり、それから、このモールそのものの清掃係なんてのもある。そこに混じって、魔王城の求人もあった。何せこのイーヴルグループの会長は大魔王様なのである。


「さすがは魔王城、福利厚生もしっかりしてるし、何より時給が良いわ」


 魔王城の厨房、清掃、経理に総務。どれもこれも魅力的なのだけれど――。


 ゆっくりと募集部署を確認していた私の指が、『そこ』でぴたりと止まる。


『募集:パート 魔王ラスボス様(1名)』


「『魔王様』を募集してるの? しかも、パートで?」


 正社員でもなく?!


『未経験者歓迎!』


 未経験でも良いの?

 ていうか、普通に考えたら誰だって未経験だよ! 魔王様だよ?! そんなの大魔王様しか経験してないからね?!


『アットホームな職場です!』


 うん、なんていうかまぁ、大魔王様のホームというかね? 住んでるから!


「でも、当たり前というかなんというか、時給が一番良いわ。それに――」


『勤務日、応相談。週三勤務OK!』


 魔王様って週三勤務で良いんだ?!


「なんかもう一周回って気になって来たわ。応募するだけしてみようかしら。どうせ倍率もとんでもないだろうし、私みたいな主婦が受かるわけないものね」


 そう思い、一か八かで受けてみたのだった。

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