第9話 吐露

 

「燿、スーパー寄りたい」

 

 冬野に言われて、僕は当然「分かった」と頷く。

 

「そう言えば梅干しは食べれる?」

「食べれるよ? というか僕は梅干しをドライフルーツだって思った事はないけど」

「梅干しも干してるけど?」

「いや、それは確かにそうなんだけどね?」

 

 でも、僕の感覚として梅干しは違うと思う。ご飯のお供ですから。

 

「干しぶどう」

「食べれません」

「ドライトマト」

「食べれないです」

「干し柿」

「無理です」

「干し芋」

「無……いや、いけるかな。あ、そうだ。バナナチップスもいけるよ」

「そうなの?」

「そうなんだよ。何でだろうね。不思議だ」

 

 僕もよくわかってないけど、まあそう言うものだ。いけるドライフルーツと、いけないのがあるんだ。深く考えたことはない。

 

「ところでお弁当のおかず買いにきたの?」

 

 そんな話をしてると青果コーナーを抜けていた。

 

「うん。メニューは今の所、唐揚げの予定」

 

 鮮魚を買う予定はないから、そのままお肉のコーナーに。

 

「もも肉で良い?」

「お願いします」

 

 彼女は特に迷わずに鶏のもも肉をかごの中に入れる。

 

 他にも色々と買った。

 

「────燿、持ってくれてありがと」

 

 レジ袋は僕の手に。

 

「お弁当作ってもらうんだし。お金払いたいくらいだけど」

「趣味の延長だから、そんなに気にしなくて良いよ」

 

 冬野が「それに燿にはお世話になってるから」と。冬野がそう言うなら、僕も甘えておこう。

 

「冬野さんが道覚えるまで、お弁当もらえるってこと?」

「……そういうこと」

 

 二回目以降もあるんだ。最高かよ。

 

「あれ、夏元さん?」

 

 帰り道。

 夏元が居た。

 

「な、え……何で」

 

 驚いたと言うような顔をする夏元に、冬野が「今日も休み?」と尋ねる。

 

「そ、うなんだよね。ここ最近、ちょっと気分が良くなくて」

 

 苦笑いしてる彼女に特に聞かれてはないけど「僕たち、今お弁当の食材買ってきたところなんだよ」と伝える。

 

「ボクも月曜日楽しみだなぁ! じゃあね!」

 

 彼女が走り去る。

 

「……取り敢えず、僕らも帰ろっか」

「そうだね」


 ────その日の夜、僕はコンビニに向かった。

 

「お腹が……」

 

 夕飯だけじゃ満足しきれなかった。適当にお菓子とかアイスとか。

 そうアイスだ。アイスだね。アイスが無性に食べたくなったんだ。

 

「アイスはね、バニラが至高なんだよね」

 

 僕はそう言う解を得たのだ。


「ま、僕の極めて個人的な考え方だけど」


 コンビニの入店音。僕は適当にしょっぱい系のお菓子とアイスを買って、直ぐに外に出る。

 

「ふっ……ふっ……」

 

 暗い中、一定の呼吸で走る少女が見えた。

 

「あれ、夏元さん……?」

 

 部活は休んでるのに、今の時間に走ってるのか。

 

「燿、くん……?」

 

 夏元も僕に気がついたらしい。

 足を止めた。

 

「気分、良くなった?」

「あ、ああ……うん!」

 

 結構汗かいてるからそれなりに走ってたんだと思う。

 

「そっか、ならよかった」

 

 今日はそれで別れた。




* * *




「ふう」


 次の日。

 冬野と僕だけで登校。僕は教科書とかを整理してすぐにトイレに向かった。


「あ」

「…………おはよ、燿くん」

「おはよう、夏元さん」

 

 朝に僕たちは会わなかったけど、夏元は既に学校にいたらしい。

 朝練の時間のはずなのに制服のままだった。何も持ってないから練習に行く途中にも思えなかった。

 

「体調は、問題ないんだよね?」

「…………うん」

 

 昨日の夜は走ってて、問題ないって言ってたけど。

 

「今日も……部活、休む?」

 

 僕の質問に夏元は目を潤ませて。

 

「……っ。部活……辞め、たい」

 

 絞り出すような声で言った。

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