第8話 連絡先ゲットだぜ

 

「おっはよー!」

 

 僕が冬野と登校してると昨日に引き続き、今日も夏元が来た。そして普通に今一緒に歩いてる。

 

「夏元さん」

「どうしたの燿くん」

「今日も朝練は休み?」

 

 僕の質問に「そうなんだよねー!」と頭を掻きながら大きい声で言う。

 

「何かあった?」

 

 昨日も朝練休んでたし。さすがに理由が気になるけど。

 

「えー? 別に何もないよ」

「そう?」

「うん。心配してくれてありがとね」

 

 それからすぐに夏元は話題を変えた。

 

「そだ、美月さん。今日はお弁当ないの?」

「時間なかったから。今度からは週明けだけにする事にした」

 

 僕も知らなかったよ。

 

「昨日は待たせちゃったし」

 

 僕の顔を見上げて冬野が言う。

 

「お弁当貰っちゃったし、その辺りはどう転んでもプラスなんだけどね」


 というか、これまでの案内含めて僕に得しかないんだから。


「そうだ、燿。週明け、時間になったら連絡してほしいんだよね」

「まあ、構わないけど」

 

 僕は冬野の連絡先知らないんだよね、未だに。

 

「じゃあ……燿、あとで連絡先教えて?」

 

 僕は小さくガッツポーズする。冬野の連絡先ゲットだぜ。まあ、本当に朝の連絡くらいでしか使わないけど。


「もしかしてまた冬野さんにお弁当もらえたり……?」

「そのつもりだけど?」


 な、なんてこった。こんなことがあっていいのか。叫び出したくなるし、感涙しそうになるけどなんとか抑える。

 

「ボクも美月さんのお弁当食べてみたいな〜、なんて」

「良いよ」

「良いの!?」

 

 聞いた本人が驚くんだ。

 

「ボ、ボク、別に美月さんにお弁当もらうような事してないよ?」

「料理楽しいからね」

 

 冬野の笑顔に僕も幸せになっちゃう。

 

「それで陽毬、嫌いな食べ物ある?」

「……そ、その」

「うん?」

「ナスが苦手で……」

 

 夏元は申し訳なさそうな顔をして言う。

 

「燿は?」

 

 え、もしかして僕これからも冬野のお弁当食べれるの?

 

「僕は……ドライフルーツが苦手です」

 

 恥ずかしがらないで言っておこう。冬野のご飯は美味しく食べたいから。

 

「じゃ、ナスとドライフルーツは入れないようにする」

 

 やった、月曜日が一番幸せな日になるかも。

 

「たまごやき! たまごやき食べたいかも! この前ので気になってたんだ」

 

 冬野に弁当を作ってもらえるとなって夏元が早速メニューをお願いしてる。

 

「分かった」

「冬野さん。あんまり手間暇とか掛けなくて良いからね?」

「大丈夫。前の日のおかず入れるのがお弁当の定番」

 

 冬野はいいお嫁さんになると思います。

 僕は将来の冬野の旦那が羨ましいよ。冬野のご飯を毎日食べれるなんて。なんで僕はモブなのか。

 

 

 

 

* * *

 

 

 

「あ、冬野さん。ごめん……忘れ物した」

 

 玄関で靴を履き替えるところで僕は教室に宿題のプリントを忘れたのを思い出した。

 

「そう? 外で待ってるよ」

 

 冬野を待たせまいと、急いで教室に戻ると。

 

「あれ、夏元さん?」

「あ……よ、燿くん?」

 

 制服のまま、荷物を纏めてる夏元がいた。

 

「部活は?」

「今日は……休みで、ね」

 

 目を逸らして夏元が言う。

 

「そうなんだ」

 

 陸上部は普通にあったと思うから、個人的な理由なんだろう。

 

「ならちょうど良いから一緒に帰らない? 外で冬野さんも待ってるんだけど」

「良いの?」

「夏元さん、部活休みなんでしょ? 僕も冬野さんも、夏元さんなら断らないよ」

 

 立ち尽くしたままの夏元に「ほら、僕も用事終わったし」とプリントを見せて、もう帰れるアピールをする。

 

「お待たせ、冬野さん」

「燿……と、陽毬?」


 僕と一緒に来た夏元を見て、冬野は不思議そうな顔をする。


「ご、ごめん。ボクも一緒に帰って良いかな?」


 夏元がおずおずと申し出る。


「教室にプリント取りに行ったら夏元さんが居たんだよ。今日は部活休みらしいから、じゃあ一緒にって思って」


 冬野に事情を補足説明。


「うん、いいよ。なんか入学式思い出すね」

「んー……じゃあ、マスト寄る?」

「二人が良いならわたしは良いけど?」

 

 冬野はチラリと夏元を見る。

 

「ごめん、ボクはムリかな……ほら、今食べちゃったら夕飯食べれなくなっちゃうし」

 

 入学式の日とは違う。今日は普通に授業あって、昼の時間というわけでもなかったし。

 

「えーと……誘っておいてなんだけど。僕も無理です。ほんとごめんね、冬野さん」

「燿、わたしも冗談のつもりだったよ?」

 

 冬野がふふ、と笑った。

 しばらく三人で他愛のない話をしながら歩いてると、夏元は「じゃあね、二人とも!」と帰って行った。

 

「そうだ、燿」

「うん?」

「朝に言ってたけどまだ聞いてなかった。ほら連絡先、教えて」

「あ、そうだった」

 

 いつもの待ち合わせ場所で立ち止まり、冬野はスマホを取り出した。僕もスマホを取り出して準備をする。

 

「よろしく、燿。週明け、待ち合わせの時間……ううん、十分前に電話で連絡お願い」


 なんかカラオケみたいだなと思いながら、連絡先を教える。冬野は早速僕にメッセージを送ってきた。


『よろしく』


 と。僕も簡潔に『こちらこそ』とメッセージで返答する。


「オーケー。任された」

 

 僕は冬野の案内係兼時間伝達係に任命された。全くもって嬉しい限りだ。精一杯頑張ります。

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