第3話 白石さん、なんか態度変わってません?

「ちなみに祐太は今期は何作くらいに絞る予定なんだ?」


「う~ん、ラノベの新作も開拓しなきゃだからな……多分10くらい」


 誰しもが嫌いであろう週の真ん中水曜日、そんな日の昼休みだ俺は友人の智哉と弁当を食べながら駄弁っていた。


「お前はそれだけ観ることできるからいいよなー、俺なんて観れて4だわ」


 知っての通りこの男の所属は野球部。毎日7時半近くまで練習があるのだから無理はない。


「まあ練習頑張れよ。お前の分まで楽しんでおくからさ」


「くっそ、こいつ言わせておけば……ってそういえば祐太さ、先週のオフ会どうだった?」


 一応智哉にもオフ会を開くことは伝えておいたのだが、あいにく練習試合がかぶってしまったようで来られなかったのだ。


 俺はすぐに彼女のことを思い出したが、間違いなく話すべきではないだろう。


「めちゃくちゃよかったぞ。新作ラノベの話もできたし、推してる作者の本も布教できたし。お前も来れればよかったのにな」


「まじかぁ…次は絶対俺も行けるときに開けよな」


「休日に空いてる日教えてくれればいつでも開いてやるよ」


「って言ってもそれがめったにないんだよなあ」


 そう言って智哉は悔しそうな顔を浮かべた。次は平日の夜開催も視野に入れておくとするか。


 そんなこんなで話しているうちに昼休みは残り5分ほどになっていた。クラスメイトたちもぼちぼち席に着き始めている。


 智哉が席に戻っていったので、俺は暇つぶしにスマホを開くとLINEに通知が来ていた。もしやと思い開いてみると案の定、白石さんからだ。


 ”日曜日が待ちきれません……!お時間があるときにLINEでお話できませんか?”


 というメッセージに例のモフモフ生物が”お願い”という文字とともに頭を下げているスタンプが送られている。


 「可愛すぎんだろ……」


 どちらに対してのかわいいなのかは言うまでもない。クラスの人気者からこんなメッセージを送られてテンションが上がらない男などいないだろう。


 送られた時刻を確認すると1時3分、ちょうど2分前だ。


 それとなく振り返ってみると教室の後方の席で彼女がこちらを見て微笑んでいた。まるで”お願いしますね”とでもいうような表情で、


「こんなの反則じゃねえか。」


 あんな表情を見せられておいて断るなんてできないに決まってる。


”もちろん。連絡してもらえればいつでも”


 メッセージを送った後にすぐ既読がつき、


”ありがとうございます。それではお言葉に甘えて今話しましょう”


 と返ってきた。おいおい嘘だろ、いくら何でも今は厳しいぞ。あまりの無茶ぶりに俺は動揺する。


”約束したばかりで申し訳ないんだけど今は授業が始まるからお互いに時間が無くないか?”


 お互いのためだ、ここは諦めてもらうことにしよう……と思ったのだが。


”なんて……冗談ですよ笑。大宮君は話に乗せられやすすぎです。”


 何とも言えない感情が俺の中を駆け巡る。冗談に乗ってしまった恥ずかしさと彼女の態度ずいぶんフランクになったことへの驚きが混ざったような感情だ。


”あんまり悪戯するようだと、話せなくなっちゃうかもな。”


 俺はささやかな反撃を込めてそう返す。するとすぐに


”ごめんなさい、そこまで怒るとは思わなかったので。どうか許してもらえませんか?”


 と返ってきた。予想通りの反応に、俺は最大限反撃を込めてこう返す。


”なんて……冗談だよ笑、白石さんも話に乗せられやすいんじゃないか?”


 俺はあえて後ろを振り向かなかった。それは先生が教室に入ってきたからではない、教室の後方からかすかに怒りのオーラが漂ってきたからである。


 ちなみに次の休み時間にLINEを見るとモフモフのあいつがプンプン怒っているスタンプが送られてきていた。

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