第38話 追い詰められた肉食獣


豊島数多は結局、悪人のままだった。

だが私達はそうはさせない。

そう考えながら別教室に転校して来た数多の元に向かい接する。


「数多」

「...何。秀水」

「この学校は前の学校とは一切違うから。貴方の理想は叶わないよ」

「...」

「...貴方がどう思っているかは知らないけど。この学校に来たからにはもう諦めなさい。叶わないからその願いは」

「アンタ...クソ生意気ね。マジに」


クソ生意気か。

そう考えながら私は数多を見る。

数多は私を見てから苛立っていた。

私はその姿に「...貴方が悪いんだから」と話す。

すると数多は私を見てから溜息を吐いた。


「帰れ」

「...そう。帰るけどもう悪い事はしないでよね」

「...」


私はそう話しながら数多に「貴方から貰ったペンダントの事もそうだけど。貴方自身は変えたいって思わないの?自らを」と聞く。

すると数多は「...は?変えたい?」と苛立つ様に話した。

私はそんな数多に「変えたいってのは自分自身を。貴方はそう願ったって思っていたけど」と言う。

すると数多は「...知らないね」と反論した。


「私は相変わらずだから。知らないし」

「そう。残念だよ。...まあいずれにせよ貴方には反省してほしい。この学校では悪い事は一切出来ないよ」

「...それはどうかな。私はアンタを倒す」

「その前に間違いは正すよ」


そう話しながら数多は私をジト目で見てくる。

私はその顔に「貴方が置かれた立場を大切にしないと。数多」と答える。

数多は「知るか」と不貞腐れた。

私はクラスを見渡す。

明らかに数多は浮いている。

クラスで、だ。


「数多。貴方浮いてるでしょ」

「は?浮いてないし」

「それは無いよ。浮いてるしね。まあどうあれ貴方はもう偉そうには出来ないから」

「...アンタ。妬みだね。本当に!」

「この世界で生きるとは悪事じゃ生きられないからね。まともに生きないと」

「...」


数多のその顔からは恨みしか見えない。

私は数多を見てから溜息を吐く。

コイツはもう戻らないだろう。

昔みたいには、だ。

そう思いながら数多を見ていると。


「豊島」


と声をかける人が居た。

それは...鮫島さんだった。

私は驚きながら鮫島さんを見る。

鮫島さんは「...その」と言う。

すると苛立った様に数多が舌打ちをした。


「何」

「...もう変わろうよ。...貴方の理想は...」

「理想?私は理想とか無いんだけど。っていうかアンタさ。私を裏切ったじゃん。アンタがそれを言える立場?死ねよマジに」


すると教室中からブーイングが沸き起こった。

「何偉そうに言ってやがる」とか。

「テメーの今の状況分かってんのか」とか。

私はその姿を見ながら数多を見る。

数多はワナワナと震えた。

それから「クソッタレが」と言ってからそのまま教室を駆け出して行く。


「豊島!」

「アンタらウザい!マジウザい!!!!!」


そして教室からそんな鮫島さんの呼び声も無視で駆け出して行く数多。

それから数多を追うと数多は屋上に逃げて行った。

屋上のドアを開けて閉める。

私が追って来ているのに気が付いた様だ。


「数多。開けなさい」

「...嫌に決まっているでしょ。...マジ何なの本当に」

「私は貴方の母親じゃ無いから分からないけど。もう懲りたでしょ。...これで」

「懲りた?懲りたって何が?私を舐め腐っているでしょうが!!!!!どいつもコイツもクソがクソがクソが!!!!!!!!!!」

「舐めてない」

「...アンタもね!舐めているんだよ!!!!!」

「舐めてないって」


激昂する数多。

私はその姿に「...数多。...私は本気で貴方に変わってほしいから舞台を用意した。...もう止めようよ。本当に。全て上手くいかない。...アンタだって分かったでしょ。悪人と付き合うと碌でも無いって」と声をかける。

すると数多は「はっ!」と言った。


「...所詮は弱者の癖に」

「それは貴方でしょう。...弱者は」

「何を...」

「貴方は自らを殺した。自らでね。...自殺したんだよ。一回」

「...何を言ってんの?アンタ。訳が分からない」

「...どっちでも良いけど開けてくれる?」


すると鮫島さん達がやって来た。

何人かのクラスメイトを連れて、だ。

ドアの向こうで屋上をハイジャックしている数多に声をかける。


「もう止めようぜ。マジに。ウザいのはどっちだよ」

「これはもう無意味な戦いだぞ。戦で大将が1人で逃げるのと同じだよ」

「そうだそうだ!」


クラスメイトは怒った様に声をかける。

するとまた人がやって来た。

今度はあーちゃん達だ。

私達を心配してやって来た様だ。


「何がどうしたんだ?」

「ドアの向こうに数多が居るの。屋上をハイジャックしてる」

「...ああ。そういう事か...」

「...どうしたら良いかな」

「...豊島。もう諦めて出て来い。お前は子供じゃ無いんだぞ」

「...」


数多は全く返事をしない。

私は「...」となってから数多の様子を伺う。

すると数多から「私はおかしくない。アンタらがおかしい」と声がした。

いつまで強情を張る気だ。


「...数多。貴方は医者を目標にしていたでしょ。...有能でしょ?...そして...貴方は馬鹿じゃ無いでしょ」

「それがどうしたの?私にとっては...」

「...今の姿を見たら父親も悲しむだろうな」


あーちゃんはそう言う。

すると数多は「...アンタね...!!!!!」と激昂した。

私は「生物が一匹じゃ活動出来ないの知っているよね。...貴方は今は追い詰められた肉食獣だよ」と言う。


「情けないよ。...昔の数多はそんな感じじゃなかった。本当に強かったよ」

「...」

「やり直そうよ。医者になろうよ。数多。もう終わりだよ」

「...」


数多から返事はない。

私は「...」となっていると。

数多が一言、言った。

「条件がある。暁月と秀水を屋上に入れる」と話す。


「私は暁月と秀水に決着をつける」


その言葉に呆れ返るクラスメイト。

「ざけんな!そんな条件飲めるか!」と怒りながら、だ。

私は「...」と考え込んでいるとあーちゃんが「分かった」と言った。

それから私の肩を叩いてから屋上に行く。

私もゆっくり立ち上がった。

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