第19話 暗黒に染まる笑み
翌日になって俺は起き上がる。
それから俺は大欠伸をしてからゆっくり朝食を作ろうと思っていると。
何故かインターフォンが鳴った。
誰だよこんな朝っぱらから、と思いながら玄関のドアを開けると。
「あーちゃん」
「何をしているんだ...?」
「えへへ。朝食を作りに来た」
「は?...ちょ、朝食?昼食を作っているだろお前。死ぬぞ」
「死なないよ。...温かいご飯食べたくない?」
そう言いながら俺の家に入って来る柊子。
俺は慌てながら「お、おい」と言うが柊子は何かビニール袋を置く。
それから鼻歌混じりに味噌とかネギとかご飯の元を取り出す。
俺は目を丸くしながら柊子を見た。
「お前マジに作るのか?」
「それはそうでしょ?アハハ」
「...しかし昼食も作ってもらっているんだから」
「私は構わないよ。朝食も昼食も夕食も。全部同じだよ」
「しかしこれ以上は迷惑をかけられないぞ」
「優しいね。あーちゃん。だけど私が好きでやっているだけだから」
好きでやっているって。
そう思いながら話を聞こうとしない柊子の手を握る。
それから「オイ。話を...」と言う。
すると柊子は「ホア?」と固まっていた。
「...あ...」
「だ、大胆だね。あーちゃん」
「...」
俺はその手を離した。
それから「すまん」と謝る。
だがその柊子は俺の手を奪う様にして握りしめた。
ゆっくり俺を見上げる。
「暖かいね。本当にあーちゃんの手」
「い、良い加減にしろ。お前な」
「...うん。頑張るよ。...俄然やる気が出てきた」
「何でこんなのでやる気が出るんだ。...お前な」
「それはそうでしょう。だってあーちゃんだもの」
「...あーちゃんだものっておま...」
「あーちゃん」
柊子は怒る様な目で俺を見る。
俺はその姿に「...?」となっていると柊子は「...あーちゃんだからだよ」とまた言ってから俺の顔を見る。
その姿に俺は「!」となりながら見つめる。
「...私、あーちゃんが居るから頑張れてこれた。10年間ずっと貴方だけを想っていたしね」
「...どうしてもう終わった様な人間にそんなに熱中するんだお前は」
「それは決まっているよ。...私が認めた男性だもの」
「...」
俺は柊子を見る。
そして俺の手をにぎにぎしながら「ゴツゴツしているんだね。男の人の手って」と笑顔になる。
俺はその言葉に我慢出来なくなり。
柊子から手を引いた。
「も、もう良いだろう」
「けち」
「ケチじゃない。...やり過ぎだ」
「ぶー。まあ良いけど。...今日は土曜日だしね」
「そうだが...」
「なら今日は1日あーちゃんの家に居れるって事だ」
「何でだよ」
「傍迷惑とは言わないが迷惑だぞ」と俺は話す。
すると柊子は「えー?」となってから俺に頬を膨らませる。
「あーちゃんは私が嫌い?」と言いながら、だ。
そういう意味じゃない...厄介だな。
「お前が嫌いなんじゃない。...だけどよく考えろよ。どう考えてもおかしいだろう。一日中...女が付き合ってもない男の家に居るっての...」
「嫁入り娘だしね」
「はぁ!!!?!」
「だってあーちゃんと結婚するって決めている」
「あのな...」
勝手に決めるな。
考えながら俺は柊子を見る。
「どう考えてもおかしいだろ。そういうのは考えられない」と言う。
だが柊子は「私は...いつか惚れさせるよ。また貴方を」と諦めない様子を見せる。
「...どうしてそこまでしてくれるんだ。こんな俺に」
「それは魅力があるから。あーちゃんに」
「...容赦無くなったなマジに。...何でもアリだ」
「私は本気であーちゃんが好きだからね」
ラブコメじゃないんだから。
思いながら俺は「柊子。お前の気持ちは分からんでもないけど。...だけど無理だ」と真剣な顔になって言う。
有難いんだよ本当に。
だけど俺の傷付いた心はもう癒えないしな。
「...柊子。有難いけど無理だ。...俺はもう傷は治らない。アイツに...豊島に傷付けられた傷はな」
「...分かる。あーちゃんの言いたい事。...だけどそれで諦めるの?あーちゃんは」
「アイツなんかに仕返ししても」
「だけどあーちゃん。やられたよね。やられたらやり返すっていうのがあるよね?」
「あるな。...だけど俺は良い。もう疲れたんだ」
そして俺は椅子に腰掛ける。
すると柊子が「...」と不満げな顔で台所に行った。
それから柊子は台所で料理を作り始める。
その姿をチラ見してから俺は前を見る。
「...クソッタレ忌々しいのは俺だよ。全く」
そう呟く。
全部俺が悪いんだ。
柊子は何も悪くないし悪気もない。
だけど無理なんだ。
女性と付き合おうとしたら...吐き気がする。
それは柊子でも変わらない。
「...間抜け極まりない。...柊子には...もっと良い人が居る筈だ」
呟いていると後ろからヒヤッとした感触がきた。
俺はビックリしながら背後を見る。
背後に柊子がジュースを持って立っていた。
「オレンジの生搾りはいかが?」と笑みを浮かべて、だ。
その顔に俺は「ああ。もらうけど...」と言葉を発しながらそのままジュースをオドオドしながら受け取った。
それから俺はその生搾りだというジュースを見る。
わざわざ作ったのか。
「大丈夫。あーちゃん」
「...何が大丈夫なんだ」
「私がやるから。復讐は」
「...お前...」
「私は許さないよ?SNSで暴露しても良いけど。これは最終手段だね」
「...」
俺は無言でゴクリと喉を鳴らす。
それから柊子を見る。
柊子は暗黒の笑みを浮かべてから「許さない」とボソッと呟く。
何だか恐怖を感じた。
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