009:インプラント埋入手術

「んじゃ後でなー」


「う、うん……」


 良光は医療用ヒューマノイドの一人に案内されて、第二手術準備室へ入って行った。

 艦治かんじはナギに手を引かれ、医療用ヒューマノイド達を引き連れる形で第一手術準備室へと通された。

 白い室内にはソファーと、カーテンで区切られた更衣室があり、その奥には扉が開かれたシャワールームが見える。


「手術前の最終チェックと致しまして、採血をさせて頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」


 艦治をソファーへ座らせて、ナギが床に膝を着いて確認する。


「は、はい。大丈夫です」


 ナギの顔が近い事でドギマギしつつも、艦治は採血しやすいよう手のひらを上して両腕を肘掛けに乗せる。

 医療用ヒューマノイドの一人が、艦治の左腕をゴムチューブで縛る。消毒をして、左腕に印鑑のような筒を添える。


「指先に痛みを感じたら仰って下さい。

 はい、終わりました」


 初めて聞く医療用ヒューマノイドの声が、ナギの声と良く似ているなと艦治が思っている間に、採血が終わった。

 医療用ヒューマノイドはその筒を両手で大事そうに握り、艦治にお辞儀をした後、足早に部屋を出て行った。


「採血の結果が出る前に、準備を進めておきましょう。

 手術前に全身を丁寧に洗浄する必要がございます。洗浄はこちらの医療用ヒューマノイド達が担当致します」


 そう言いながら、ナギは艦治の制服へと手を伸ばし、脱がそうとする。


「えっ!? あの、洗浄って事は、シャワーを浴びるって事ですよね? 自分で脱げますのでお構いなく!!」


「あらあら、そうですかぁ?」


 艦治が動揺している間にナギと三人の医療用ヒューマノイド達がテキパキと動き、ワイシャツのボタンが全て外され、ベルトを緩めてズボンが脱がされた。

 脱がせた医療用ヒューマノイドから服を受け取り、ナギが丁寧に畳んで脱衣カゴへと仕舞っていく。


「さすがにコレは自分で、……!?」


 最後の抵抗をしようとした艦治だが、それも聞き届けてもらえず、ついには全裸に分厚い眼鏡を掛けているだけになってしまった。

 艦治は前屈みになり、両手で自らの股間を隠す。そんな艦治を気にする様子もなく、三人の医療用ヒューマノイド達がその場で手術着を脱いでいく。


「えっ……、ナギさんとそっくり、と言うかそのもの……!?」


 手術帽を脱ぎ、ゴーグルとマスクを外した医療用ヒューマノイド達は、全員がナギと瓜二つの姿格好をしている。


「「「「私達は人工的に作られたヒューマノイドですので」」」」


「うわぁっ!?」


 一斉に同じセリフを口にするナギと三人の医療用ヒューマノイド達。あまりの事に艦治は身体を反らした。

 そしてそれ以上の衝撃に、艦治は声を失う。全裸となった医療用ヒューマノイドの膨らんだ乳房には乳首がなく、股間には全く何も備わっていないのが見えたからだ。

 

「それではこちらへ」


 表舞台で活動する神州丸のヒューマノイドは、ナギのみだ。今まで、その裸を想像する男は無数に存在したが、実際に同タイプのヒューマノイドの全裸を拝んだ者は一人もいない。


 衝撃の事実を知らされた艦治は、ナギに眼鏡を外されて、医療用ヒューマノイドに言われるがままシャワールームへ案内された。そして全身隈なく洗浄された後、バスタオルで簡単に水気を拭かれる。

 男子高校生にとっては夢のような展開であるが、艦治本人の頭は『!』と『?』で埋め尽くされており、その下身体も自己主張する事はなかった。

 艦治はバスローブのようなものを着せられて、ナギの元へと戻って来た。


「それでは手術室へ参りましょう」


 再びナギに手を取られ、第一手術準備室から続いている、第一手術室へと案内される。

 薄暗い十畳ほどの部屋では、艦治の全身洗浄を担当しなかった医療用ヒューマノイド達が、医療用ポッドの操作を行っている。

 部屋の奥に設置されている医療用ポッドは、ガラス張りの半円筒形の中にリクライニングシートが設置されたような形で、高さはナギの身長と同じく百五十センチ。

 医療用ヒューマノイドの操作により、ガラスが天井部分からせり下がって、ポッド内に入れるようになった。

 ナギが艦治のガウンを脱がせて、リクライニングシートへ座るよう促す。


「採血を解析した結果、私どもの期待通りの結果でした。艦長」


「カンチョー? 今から浣腸するんですか?」


 眉を顰める艦治の眼鏡を取って、ナギが微笑む。


「いえ、その必要はございませんわ」


 ナギが後ろに下がり、入れ替わりに医療用ヒューマノイドが艦治の身体を器具で固定していく。


「ポッド内が密閉された後、中を液体で満たします。呼吸を確保する為に、このマスクを着けさせて頂きます」


 太い管の先に付いた酸素マスクが自動で動き、艦治の鼻と口を覆った。


 円筒形のガラスが再びせり上がり、艦治はポッド内に隔離される。説明通り、透明な緑色の液体がポッド内に満たされていく。


『インプラント埋入まいにゅう手術自体は十分程度で終わります。全ての手術が終わりまして、再び目を覚まされるのは三十分後の予定です』


 シート内蔵のスピーカーから聞こえるナギの説明に耳を傾けつつ、艦治はついに自分の身体にインプラントを埋め込むのだという実感が沸いて来て、心臓を大きく鼓動させる。

 首の下まで液体に満たされた頃、再びナギが艦治へ声を掛ける。


『液体がポッド内に充満した後、酸素マスクから麻酔を注入致します。

 何度か呼び掛けますので、聞こえましたら口を閉じたまま声を出して答えて下さい』


「んーーー」


『そうです、そのようにお願いします』


 そしてすぐに艦治の全身が翠の液体に浸かり、スピーカーからナギが声を掛ける。


『麻酔を注入致します』


「んーーー……zzz」














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