第23話

望奈の撮影は演技練習の成果もあって順調に進んでいた。

この日も撮影の後で、望奈は劇団あすかで演技の指導を受けていた。

演出家の葉山は多忙なので、週に2日見てくれる事になっている。

既に午後9時でジュニア部の団員達は帰っていた。

残っているのは望奈と暖だけだった。

暖は相手役を演じていた。

「私の気持ちなんか知りもしないで」

望奈は拗ねた声で演技をしている。

「違う違う。それじゃあ甘えているだけだ。もっと切なさを表現しなきゃ」

暖に言われて、望奈は再び演技に入る。

「違う!只の甘えじゃなくて、もっと台本を読み込んで」

「暖、葉山先生と同じ事言うのね」

「何て言ったの?」

「咲が分かっていないって」

望奈はそういうと台本を開いた。

「でも何処にもそんな事書いてないし」

「望奈、咲をどう演じるかによって物語が変わるんだ。咲はもっと繊細な心を持っている。それが望奈の演技からは伝わって来ないよ」

望奈は俯いてしまった。

「明日は撮影あるの?」

望奈は黙って首を振った。

「明日は午前中オフだから学校へ行って、午後からは雑誌の撮影」

「そう。じゃあもう一度台本を読み込んでみ

て」

暖はそれだけ言うと稽古場を出て行った。


暖は過密スケジュールの中、私の演技練習に付き合ってくれてるのに……

望奈はマンションに帰ると自分の部屋で台本を開いた。

もうすぐキスシーンがある。

恋をするのも、キスをするのも中山咲。菅野望奈じゃない。

でも……

どうしよう。咲の気持ちになれないよ。

望奈は台本をカーペットの上に置くとうつ伏せてしまった。

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