第21話

菅野望奈は東京の下町の生まれだ。

隅田川が流れる近くに望奈の実家がある。

父親は小さな整備工場を運営していた。

従業員は5人だ。

「ただいま」

「お帰りー。望奈ちゃん」

丁度居間で6人で鍋を囲んでいた。

望奈は父一人子一人である。

「ビール買って来たの。週末だし多分こんな事じゃないかと思って」

「おー!流石望奈ちゃん、気が利く!」

従業員の一人、今井が声を上げた。

「それで望奈ちゃん、仕事の方はどうよ」

中村が望奈を笑顔で見ながら言った。

中村は四十過ぎのヒゲ面の男だ。

「何言ってるんだよ!今や日本広しと言えどこれ程の超人気スターはいないよなあ」

「繁さん、酔ってるの?」

繁さんは父の右腕だ。

雨の日も風の日も父と共に頑張って来た。望奈はまだ16なので、アップルジュースを飲んでいる。

「いや、望奈ちゃんは絶対に日本一のスターになる!」

「望奈、忙しいようだが無理はしてないか?」

父親が言った。

「望奈はますます母さんに似て来たよ」

「綺麗だったもんなー。雪子さん」

中村が思い浮かべるように言った。

「正に掃き溜めに鶴だよ。俺みたいなムサイ男の所に雪子みたいな綺麗な嫁さんが来てくれたんだから」

父親は亡き妻を思っているのか視線を遠くに向けた。

母が亡くなって8年が経つが、父の中に再婚の文字は無い。

望奈は父のグラスにビールを注いだ。

「後4年待ってよ。20歳になったら幾らでも付き合うから」

「お前、付き合っている子がいるって言ってたじゃないか。今度連れて来いよ」

「社長、俺らみたいなムサイのが揃っていたら彼氏逃げちゃいますよ」

一番若い堂本が言った。

堂本は22歳だ。

「そんなんで逃げる子なら最初からお断りだ。なあ、望奈」

望奈は苦笑いしている。

望奈は繁さんにビールを注いだ。

「でも社長、望奈ちゃんテレビや映画に大活躍じゃないか。超人気スター連れて来るかもよ」

繁さんが笑いながら言った。

「ないない。望奈は不器用だから。そういう所だけ俺に似たんだよな」

望奈の器に鶏肉を入れながら父親が言った。

「早く食べなきゃなくなるぞ。望奈」

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