第20話

望奈はルームメイトの桜井はるかと2人で事務所のマンションで暮らしている。

望奈の方がスケジュールが混んでいるので、料理担当ははるか、望奈は後片付け担当である。

はるかは金沢の出身で16歳の時にたまたま遊びに来ていた渋谷でスカウトされた。望奈より一つ上で森越学園高校芸能科の2年生であった。

「本当に吹石暖が来るの?」

「本当だって。英語苦手だからって言ったら教えに来てくれるって言うの」

望奈ははるかの作った親子丼をダイニングで食べていた。

「はるかも物理苦手でしょ。暖に訊いたら?」

「教えてくれるかなあ」

「大丈夫よ。その代わり暖の大好物作って待っていよう」


暖が望奈とはるかのマンションを訪ねて来たのはそれから3日後だった。

「暖、彼女がルームメイトで友達の桜井はるかさん。はるか、私の彼の吹石暖さん」

望奈は紹介しながら少し照れていた。

「初めまして。吹石暖です」

「桜井はるかです。宜しくお願いします」

自己紹介が終わると、早速勉強に入った。

リビングにあるダイニングテーブルの上に教科書やノートが出ていた。

「じゃあ、ここの訳は…… 空には雲があった。僕はその雲をずっと見ていた。で合ってる?」

「正解」

暖はそういうと、望奈がじっと見ている。

「何?」

「はるかは物理苦手みたいなの。はるかにも教えてあげて」

「そう。何処が分からないの?」

暖は今度ははるかの隣にやって来た。

「あ、あの…… 問3が」

はるかはおずおずと訊いた。

「あーこの問題はね」

こうして問題が解けた所で、望奈がチキンカレーを運んで来た。

「はーい、お待たせ」

2人はあたふたと勉強道具を片付け始めた。

望奈はダイニングの上に野菜サラダとカレーを置いた。

そして3人は食べ始めた。

「美味しいよ」

「良かった」

はるかが胸を撫で下ろすと、暖が笑った。

「チキンカレー大好きなんだ」

「望奈から聞きました。チョコレートムースも好きなんですね」

「もしかしてあるの?」

「ちゃんと用意しているよ。ねえ、はるか」

カレーを食べ終わるとチョコレートムースが出て来た。

暖は目を輝かせている。

「わあー。有難う!」

望奈はまた暖の新たな一面を見ていた。

子供みたい……

こういう所もあるんだ。

暖は喜んで頬張っていた。

「これなら毎日でも食べられるよ!」

望奈とはるかは顔を見合わせて笑った。

何だか胸がほんのりとあったかくなっていた。

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