第4話・紅トマトと決闘〈デュエル〉開始いいぃ!

 冒険者ギルド内にある訓練場。

 踏みしめられた土にレンガ状の壁がある場所で、広さは学校のグラウンドくらい。

 中央では紅トマトが準備運動で両手剣を振り回しており、自信満々に切先をコチラに向けてきた。


「アンタに効率厨の力を見せてあげるわ」

「ははっ、茶ゴブリンにボコられたやつが何を言ってるんだ?」

「茶ゴブリンにボコられたのはアンタも同じでしょ!」

「おいおい、俺の場合はお前よりは生き残っただろ」

「ほんの少しの差じゃない!!」


 わかってないなー。

 その少しの差がどれだけ大きいのか、コイツは理解してないのか?

 ただ効率厨(笑)の紅トマトに説明するのも面倒なので、俺は左腰に装備している片手剣・ワンソードを勢いよく引き抜く。


「ならそう思っておけよ。でだ、勝負はHP半減か全損リスポーンのどちらにするんだ?」

「そんなの全損に決まっているでしょ!」

「了解」

「チッ! なんでそんなに余裕そうなの!」


 いやだってレベル三だし。

 食堂の時にステータスの振り分けもしてるから、レベルが一っぽいコイツよりもかなり有利。

 このゲームはレベルが上がりにくいが、その分レベルアップの補正が大きくて能力の差が出やすい。


 さてと、どうお仕置きしようかな。

 コイツの自己中さは俺でもブチギレ案件だから、徹底的に叩き潰したいな。

 βテスト時に戦った時は七対三くらいの割合で勝っているから余裕はあるけど、それでは面白くない。


「シルバー頑張れ!」

「おう! まあ、自己中女に負けるつもりはないけどな」

「自己中女? それってアタシのこと?」

「「「うん!」」」

「ちょっ!? なんで三人揃って綺麗に頷いているのよ!!」


 俺、カルラ、審判をしてくれる警備員のスキンヘッドことツルットさんが同じタイミングで綺麗に頷く。

 紅トマトが悔しそうに地面に蹴り付ける中、審判のツルットさんが真顔で言葉を発した。

 

「そりゃお前が悪い!」

「はっ? ハゲの癖に一丁前に説教をしないで!」

「だからオレはハゲじゃなくてスキンヘッドで、いつになったら覚えるんだ!」

「ああ、紅トマトは頭のネジが外れているんです」

「誰が頭のネジがないポンコツラーメンよ!」

「そこまではいってない!!」


 相変わらず被害妄想がひどすぎないか!?

 牛のようにブルルッと鳴きそうな紅トマトを尻目に、改めてワンソードを構える。

 てか、ポンコツラーメンてなんだ?


る気があるのはいいが早く始めてくれ」

「わかりました」「アンタに言われなくてもやるわ」


 半透明のウインドウを開き、紅トマトへ決闘申請を送る。

 向こうも受け取り、OKサインが出たので空中にスタートまでのタイマーが浮かび上がった。


「絶対にぶち殺す」


 俺達は一定の距離を取りつつ、互いに目を合わせる。

 殺気の籠った目でコチラを睨みつけてくる紅トマト。

 訓練場内にいるプレイヤーやNPCは、興味深そうにコチラへ視線を飛ばしてくる。


「装備を見た感じ銀髪のジョブは剣士で、自己中女は戦士っぽいな」

「武器のリーチでは自己中女の方が有利だがどっちが勝ちそう?」

「さあな? まあ、楽しければどっちでもいいだろ」

「「「だな!」」」


 呑気なプレイヤーどもめ。

 地雷紅トマトのコイツ相手は疲れるんだぞ……。

 内心でげっそりしていると、空中に浮かぶタイマーがゼロになりスタートのブザーが周りに鳴り響いた。


力斬撃パワー・スラッシュ!!」

「おいおい、いきなり飛ばしてきたな!」

「アンタみたいな紙装甲にはコレが一番効くのよ!」


 ダッシュでコチラに近づき、兜割の要領で両手剣を振り下ろす紅トマト。

 俺は回避スキル、クイックターンを使い左に避けながら彼女の後ろに回り込む。


軽斬撃ライト・スラッシュ!」

「ぐっ! なんでお尻!?」

「そこが一番狙いやすかったから」

「この変態!!」


 初心者用のズボンの上から片手剣の武技、軽斬撃ライト・スラッシュを浴びせる。

 このゲームは痛覚遮断がされており、痛みはほとんどないはずだが、彼女は頬を赤く染めながら両手剣を横に払ってきた。


「ばーか。そんな大ぶりの攻撃なんか当たるかよ!」

「このっ!? 絶対にぶち殺してやる!」


 ブンブンとヤケクソぎみに両手剣をふるう紅トマト。

 怒りで我を忘れているのか、彼女はギリギリと武器の持ち手を握りながら刃を地面に叩きつけた。

 

「トロイトロイ!」

「ちょこまかと!」

「おいおい、せっかくの美少女顔がブサイクになっているぞ」

「流れを掴んだだけで調子に乗らないで!!」


 軽斬撃一発で紅トマトのHPは残り七割弱。

 本来ならもう少しダメージが入るはずなのに、何かしらあるのか思った以上に少ない。

 両手剣を横薙ぎをバックステップで回避しながら、隙ができたタイミングで腹に蹴りをぶちかます。


「ごほっ!? あ、あんた、ほんと容赦がないわね!」

「金がかかってるから当たり前だろ!」

「守銭奴は女性にモテないわよ」

「はっ! 金で寄ってくる地雷にはモテたくはないけどな」

「もしかしてアタシの事を言っているの?」

「逆にお前以外に誰がいるんだよ」


 やべぇ、煽り楽しい。

 飛び蹴りで紅トマトのHPが一割減って残り六割。

 このままセコセコと削るのは時間がかかりそうなので、俺は一息吐きながら体勢を落とす。


「このっ! いい加減くたばりなさい!」

「この状況で振り下ろしソレは悪手だろ」

「なっ!?」


 力のこもった振り下ろし。

 怒りで我を忘れたのか、紅トマトが大ぶりの攻撃をした。

 俺はその攻撃を左へサイドステップを踏み、ワンソードに氷を纏わせながら彼女へ突撃した。


氷桜こおりさくら!!」

「なっ、氷属性の武技スキル!?」


 βテスト応援ガチャで当てた大当たりの一つ。

 片手剣武技・氷桜は、敵に三連撃の斬撃を放つ武器スキル。

 特徴は片手剣に氷属性を付着する事で、物理耐性が高い相手にも有効な武術スキルだ。


「コイツでトドメだ!」

「あ、アタシがこんな変態に負けるなんてありえない!!」

「いや、βテストの時も俺が勝ち越してたよな」


 氷桜の三連撃が紅トマトの背中、お尻、太ももに直撃。

 彼女のHPバーが一気に削れ、そのままゼロになりポリゴンの塊になって消えた。


『決闘の勝者・シルバー!』


 合法PKの決闘。

 紅トマトからドロップしたアイテムやお金を確認した後、振り向くとキラキラと目を輝かせたカルラに抱きつかれた。

 

 飛び込みの勢いがすごくて押し倒されてませんか?

 カルラに押し倒されていると、彼女の柔らかいおっぱいが俺の腕に当たり気持ちよく……。うん、考えるのをやめよう。

 

「お疲れ様シルバー!」

「これくらい問題ない」

「そう。まあ、相手はそこまで強くなかったよね」

「お、おう……。いちおう、アレでも強い方なんだけどな」

「へえー?」


 雑魚扱いされる紅トマト。

 性格はともかく、能力自体は優秀でゲームの攻略組の一人に数えられるくらい強いんだけどな……。

 今回は氷桜の初見殺しと煽りで圧勝できたが、つぎ戦う時は勝てるかわからないしな。


「あの地雷女はそんなに強いのか?」

「んー、まあ戦闘力だけ見ればかなり強いですよ」

「そ、そうか……。まあ、アイツに勝てるお前はそれ以上なんだな」

「まあ。それよりもスキンヘッドさんはこれからどうするんですか?」

「ん、ああ。オレはいつも通りの業務に戻らさてもらう」


 ストレスが発散されたのか、満面な笑みを浮かべるツルットさん。

 彼は嬉しそうに手を振りながら訓練場を離れ、他のプレイヤー達も満足そうに離れていく。


「あの女はやばかったよな」

「まあでも地雷好きにはたまんない」

「ええ……。流石にドMすぎるわよ」

「ドMで悪いか!!」


 一部ヤベェプレイヤーも混ざってないか?

 オンラインゲームのプレイヤーは女に飢えているやつもいるので、俺はドン引きしながらカルラに離れてもらい立ち上がる。


「と、とりあえず、訓練場ココを離れるか?」

「そうだね」


 改めて依頼探しか狩り場所を決めないとな。

 これ以上ココにいる必要はないので、俺達は一息吐いて落ち着きながら訓練場から出ていくのだった。

 

 

 

 

 


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る