第8話

「お兄ちゃん、聞きたいことがあるんだけど今いいかな?」




桃璃は、目線をテレビから外すと「どうした?」と言い体ごと杏璃の方へと向ける。





「お兄ちゃんは進路とかどうやって決めたの?」





「進路か...俺達は、小さい頃から父さんが家族の為に仕事頑張ってきたの知ってるだろ?」




「うん。いつも遅くまで仕事してたよね」




「だから、父さんの仕事の手助けをしたいって小さいながらに思ってて。それが進路に繋がったって感じかな?」





「そっかぁ..お兄ちゃんは凄いな」





杏璃たちの父、中村 英司(なかむら えいじ)は3代続く中村商事の社長を務めている。会社の規模はそれなりに大きいのだが英司は家で仕事の話をあまりしない為、杏璃は父の会社について詳しい事はあまり知らない。子供たちに会社を継ぎなさいなどの無理強いをした事がないし、好きなことをするようにと子供たちの意思を尊重してくれるとても家族思いの父親だ。



小さい頃から、そんな父親の姿を見てきた桃璃は将来自分が会社を背負う覚悟で進路を決めていたのだろう。




「進路のことで何か悩んでるのか?」





「んー...今はまだやりたいことが見つからなくて。みんなどうやって進路決めてるのかな」





「杏璃はまだ15歳なんだから、焦らずゆっくり自分のしたいことを見つけたら大丈夫だよ」





やりたいことを見つけるために大学に行く人もいるくらいだからと兄が教えてくれた。




「この先、杏璃は色々な人と出会って関わっていく。その中で、やりたいことへのきっかけを見つけることが出来るかもしれない」




やりたいことを見つけようとする気持ちが大事なんだよと言う桃璃の言葉に杏璃の心は軽くなった気がした。




「ありがとう、お兄ちゃん」





「どういたしまして。何かあればいつでも相談しておいで」





周りはみんなシスコンと言うけれど、杏璃にとって兄である桃璃は頼れる偉大な存在だ。





ご飯の出来上がりを知らせる母の声が聞こえ、2人はダイニングテーブルに向かった。

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