第25話 リベンジ・オブ・ザフォー

 明け方の森林地帯。

 ようやく現れたトレントは、寝起きの俺たちに向けて先手を打ってきた。

 太い枝による一撃が、容赦なく振り払われる。


「【グランフレア】!」


 ガーネットから解放された俺はすぐさま、炎弾を放ってけん制。


「【フレイムストライク】!」


 すると続け様にプラチナが追撃して、トレントを下がらせる。

 反撃は、迫り来る枝。

 刺突にきた一撃を、ガーネットが魔力を乗せた短剣で斬り払う。


「【フレイムストライク】!」


 その隙にプラチナが、幹に火炎弾を撃ち込んだ。

 見事な一撃に、あがる炎と黒煙。

 しかしトレントは、その間にこっそり根を伸ばしていた。


「っ!?」


 突然の攻撃に、副長は硬直。


「あぶないですわっ!」


 それを見たガーネットは、なりふり構わず飛び掛かり、泥の残る地面を転がって副長を救出。

 するとすぐさま副長が、その手をトレントに向けた。


「【…………】!」


 駆け抜ける烈風は刃となって、トレントの太い枝をまとめて斬り飛ばす。

 さらに幹にまで、深い傷を刻み込んだ。

 魔法名は聞こえなかったけど、この威力はなかなかのものだ。


「副長は、魔力なら魔法隊の中でも一番なの」


 プラチナの言葉に感心していると、泥まみれになったガーネットと副長が駆けてきた。


「あ、あの、おそらく四人で一緒に魔法を放てば、大きな効果を出すことができます……っ」


 昨夜のリンゴウサギが好感度を上げてくれたのか、ちゃんと聞こえる距離で作戦を提案してくる副長。

 それでも常人の半分以下の声量だけど、がんばって声を張ってくれたみたいだ。


「よし、いこう!」


 俺たちは全員でトレントに狙いをつけて、魔法を同時発射する。


「【グランフレア】!」

「【フレイムストライク】!」

「【ファイアバード】!」

「【…………】!」


 俺たちの放った炎魔法を、副長の起こした風が増大させる。

 朝焼けの空を照らすほどに大きく広がった猛火が、トレントを燃え上がらせた。

 やっかいな枝葉が一気に減少し、俺たちは歓喜に拳を握る。しかし。


「……嘘だろ?」


 追い込まれたトレントは、まさかの急成長。

 枝葉を大量に伸ばし、その幹をあっという間に伸長させていく。

 その全容は、これまでの倍以上だ。


「そんな……!」


 その大きさにプラチナも、さすがに二の足を踏む。

 そして始まる、怒涛の攻勢。


「「「「ッ!!」」」」


 無数の枝がしなり、斬撃のように迫りくる。


「くっ」


 腕を弾かれたガーネットが、苦悶の声と共に倒れ込む。


「きゃあっ」


 足を払われたプラチナが、体勢を崩してヒザをつく。


「…………っ!」


 副長に至っては、追ってくる刺突攻撃に半泣きで逃げ回るのみ。

 その攻撃は、圧倒的な手数を誇る。


「プラチナ! どうにか隙を作れないか!?」

「何か作戦があるの?」


 枝から逃げつつうなずくと、プラチナは急いで立ち上がる。


「分かった、それならシャルルに賭けるわ! みんな、同時にいきましょう! せーのっ!」


 三人はうなずき合い、一斉に全力疾走から身を投げる。

 そしてそのまま転がりながら、強引にトレントに向けて手を伸ばす。


「【フレイムストライク】!」

「【ファイアバード】!」

「【…………】!」


 プラチナとガーネットの放った炎が、副長の起こした風に煽られ巨大な火壁となる。

 それによってトレントは、攻撃の手を停止した。


「シャルル、今よ!」

「よし、いくぞ!」


 俺は全力で走り出し、トレントに接近。


「これでも、喰らええええ――っ!!」


 準備しておいた底の丸いフラスコを、全力で投擲する。

 宙を舞うフラスコ。

 しかし飛来する物体に気付いたトレントは、伸ばした枝で斬り飛ばす。


「そんな……っ」


 プラチナが悲鳴をあげる。

 俺の投じたフラスコは直撃せず、中身の液体がこぼれて飛び散った。


「どうしますの!?」


 まさかの事態にガーネットもさすがに慌てた様子を見せる。しかし。


「いや、これでいい!」


 こぼれた液体は、そのまま『剥き出しの根』にかかる。

 すると、トレントの動きが突然止まった。


「なに、あれ……」


 大きく全身を震わせ出すトレント。

 俺が投げたのは、念のため準備しておいた魔法薬。

 効果を発揮し始めた【超濃縮除草剤】はトレントの葉を落とし、枝を枯渇させ、幹を痩せさせていく。

 巨大化したのは失敗だったな。

 乾いてしまえば、あとは燃やすだけだ!

 俺は右手を掲げ、必殺魔法で勝負を付けにいく。


「これで終わりだ! 【メギドフレイム】!」


 放つ灼熱の炎球が炸裂し、大きく燃え上がる。

 巨大な薪と化したトレントは、天を焼くほどの猛火に容赦なく焼かれ、消し炭となって消えていく。


「シャルル、やるじゃない!」


 そんなトレントの最後を見て、駆けつけてくるプラチナ。

 歓喜のまま、両手を上げてハイタッチ。


「大したものですわ!」


 意外なことにガーネットも、うれしそうな笑顔であとに続き、パーンと気持ちの良い音を鳴らす。

 そして最後は副長。

 ものすごく悩んだ後、おずおずと手を出してきた。

 この感じは、人見知り独特のハイタッチ参加への迷い……っ!

 軽く手を合わすと、安堵する副長。

 こうして俺たちは見事、難敵トレントに勝利した。



   ◆



 城に戻って、トレントの打倒を報告した俺たち。

 その事実が確認されると、騎士団はざわつき始めた。


「魔法隊が、トレントを討伐した……!?」

「あのやっかいなトレントを? やっぱり魔法隊はエリートなんですね」

「そう? 別に大したことじゃないけど」

「わたくしたちにかかれば、この程度は当然のことですわ」


 騎士団員たちの驚きの声に、さっそく気持ち良くなってるプラチナとガーネット。

 もちろん、これだけの人数が集まれば副長はビビって柱の陰だ。

 俺は「来い来い」と手招きするが、ブンブンと涙目で首を振る。


「…………!」


 何を言っているのかは、当然聞こえない。


「トレント討伐、見事だった」


 するとそこにやって来たのは、アテナ。

 レインは、そのまま後ろに倒れ込みそうなほど得意げに胸を張る。


「このくらい、エリートたる魔法隊には造作もない事よ。まあ、アテナもがんばって」


 そして幼馴染であるアテナの肩をポンポンと叩くと、完全に勝ち誇った顔でそう言った。


「……魔導士シャルル。サボっているかと思いきや、突然このような難しい仕事を成してくるとは……やはり読めない」

「俺も、やる時はやるってことだよ」


 困惑するアテナに、俺もここぞとばかりにアピールしておく。

 圧勝だ。

 今回の戦いは、全てが最高の結果になった。

 トレント討伐効果で、しばらくはのんびり生活ができるだろう。


「急報です!」


 二週間は、気ままにやれる。

 俺がそんな見積もりを出していると、一人の騎士団員が駆け込んできた。


「何があった?」

「なぜか北部の森の一部が、草木の枯れ果てた死の大地に!」

「「「……っ!?」」」

「あの辺りはグレートベアの住処だったので、作物などを求めて森を出てきているようです!」

「なんだと!? なぜそんなことが!!」

「「「…………」」」

「森を封鎖しておけば良いトレントとは違い、表に出てくるクマはやっかいだぞ……! 一体誰がそんなふざけたマネを!」

「「「…………」」」


 さらに、ざわつき出す騎士団。

 俺たちはそーっと、この場を離れる。

 そして、城を出たところで――。


「お願いシャルル! クマが森に帰りたくなる薬を作ってえ――!」


 プラチナがしがみついてきた。


「無茶を言うな! そんな魔法薬聞いたこともねえよ!」

「そこをなんとか! お願いだからなんとかしてよ――――っ!!」

「わたくしからも、お願いしますわ!」

「こくこく!」


 ようやく乗り越えた、トレント狩り。

 でも今度は、クマ狩りに連れ出されることになるかもしれない……!

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