第10話 魔王と勇者
「そもそも魔王ってなに? 三百年周期で現れるとか聞いたけどそれもなんで」
走り回っているみーちゃんの甲高い歓声を聞きながら、疑問を口にする。
みーちゃんが大喜びなのはいいことだけど、走り回られてちょっと気になる。
いつの間にか水の犬二匹に増えているし。真面目な話をしながら増やしたの? 飽きないように? もしかしてセバスチャンって子供の相手に慣れてる?
「マナは循環しているといいましたが、魔法で使用されたマナは濾過されず、少しずつ沈殿していくようなのです」
循環してるって言われたときから思っていたけど、世界のどっかに洗浄機能付いてんの?
微妙にずれた私の疑問には気付かず、セバスチャンは説明を続けた。
燃焼して残った灰みたいに積もった塵は循環を淀ませる。その淀みは循環できず世界のあちこちに降り積もる。そして三百年降り積もったその淀みの中から、世界の悪い部分を詰め込まれた存在が生まれる。
それが「魔王」という存在らしい。
三百年なんだ。三千年の歴史とかじゃないんだ。
年月が思ったより短いなと思ってしまったのは地球が億単位の年月回り続けている所為だろうか。
「淀みから生まれた魔王は、魔物を率います。淀んだマナで魔法を使う生き物を我々は魔物と呼んでおり、魔王はその淀みから生まれる存在のため本来ならば魔王は使役される側なのですが…あまりにも密度の高い圧縮されたエネルギーの塊なので、使役ではなく崇拝されているのです」
「…神様みたいな扱いなわけね」
ちょっといっていること難しくてよくわからなかったけど、日本人の感覚でなんとか理解した。あれだ。人は火を使うけど火は神様からの贈り物とか、火の神様がどうとか色々逸話があるって聞くし。そういう感じのふわっとした感覚だ。
私はこのあたり理解を諦めている。知らん。
「魔王がどんな形をしているのか、それは生まれてこなければわかりません。そしてその魔王は世界を循環する生命エネルギーから生まれた存在のため、この世界で生活している者たちでは触れることもできません」
「過去、何度も魔王に挑んだ戦士達がいたが、歴戦の戦士だろうと勇猛なる戦士だろうと、魔王に一太刀も入れることもできず亡くなっている」
「魔王が存在することで、マナの淀みが増えてエネルギーの循環が滞ります。結果世界の衰退を招き、魔物達の活性化が広がるのです」
だから魔王を倒す勇者が異世界から召喚される。
一度だけでなく何度でも、勇者は召喚されてきた。
魔王討伐、そのためだけに。
…召喚されてすぐさらっと聞かされただけの内容だけど、本当にこの世界の人達って魔王に対して役立たずなんだな。
散々子守として役立たずとヒソヒソされていた私はまるで役に立たない異世界人にケッと悪態を吐きたくなったが、それどころではない。
つまりガチで、幼女な勇者みーちゃんでないと魔王討伐はできないらしい。
あの、水でできた犬をバシャバシャ叩いて大喜びのみーちゃん(年齢不明)に、悪の神様みたいな世界の敵を倒してこいと。
(…やっぱりこいつら狂ってるわ)
色々説明しながらこっちを納得させようとしているの、なんとなくわかる。
曰く、勇者様は幼いので討伐は見送るが伝説の武器を使いこなす練習はした方がいい。
正確な年齢がわかり次第、勇者として必要な教育を受けて少しでも早く魔王を討伐し、帰還できるようにマナを循環させる必要がある。
帰るために、少しでも早く魔王討伐ができるよう、手を取り合っていこう…。
なんて。
なんとなくだけど、生活指導の教師に似てる。
こっちの言い分と聞いたりするけど、でも校則だからねと押さえ付けてくる感じ。生徒が一人でも違う格好、方向を向いていたら矯正にくる教師。
アレも仕事だし、校則を破っているのはこっちだけど、ウザいんだよね。頭が悪いなりに授業はちゃんと受けているんだから格好くらい好きにさせて欲しい。
こいつらはこいつらで、自分たちの世界の常識を校則みたいに説いて、私に生徒のように同じ方向を向いて欲しいのだ。
魔王討伐という目的に、一緒に向かって欲しい。
(向かうわけないじゃん。誘拐犯の誘導するほうにいくわけないじゃん)
顔だけ王子は全体的のぼんやりした説明しかしなかったけど、セバスチャンは具体的な数字も出してより詳しく説明してくれた。おかげさまで、逃げ場がないことが実感できた。
(だけど、犯人の持ってきた情報だけ信じるって危ないでしょ)
洗脳を警戒するのは、ロミオトラップとか監禁された被害者の「逃げられない」思い込みとかをテレビで見過ぎた所為かもしれない。
私たちのギャン泣きで態度が改められたのも、あの雷を制御できると思えなかったからじゃないだろうか。このままではせっかく召喚した勇者が…たとえ失敗だとしても勇者が潰れてしまうと思ったから、懐柔して使えるようにしたいんじゃ…。
(あー! 頭いたい! こういうの考えるのマジ無理なんだけど!)
ほんと無理だ。私の代わりに誰か考えて。
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