第21話 響夜さんの胸の内
紫龍のアジトから飛び出して、向かったのは響夜さんの入院している病院。
抗争の後始末もしなくちゃいけなかったけど、それよりも私の中から響夜さんがいなくなってしまったことが気がかりで。
幹部総出で、病室までやってきた。
最後に響夜さんが言った、まるで別れの挨拶のような言葉。
不安の渦巻く胸を押さえながら、病室の扉を開くと……そこには、信じられない光景があった。
「響夜……さん……」
「美子……ただいま」
病服を着て、ベッドに腰かけているのは、さっき消えたばかりの響夜さん……。
ううん、違う。消えたのは生霊の響夜さんだよね。
でも、ここにいるのは……。
あんな風にいなくなるから、逝ってしまったのかもって、不安になった。
だけど……。
「響夜さん……バ、ハカァァァァッ!」
「うわっ、美子!?」
「急にいなくなって、すっごく心配したんですよ! もう会えないかもって、不安になって。なのに、なに体に戻ってるんですか! 生き返るなら生き返るって、ちゃんと言ってくださいー!」
「美子……悪い。俺も初めての経験だったから、どうなるか分からなかったんだ。急に意識が薄れて、もしかしたらこのまま逝ってしまうのかもって思った」
「だったら尚更、踏み止まってくだいー!」
響夜さんに抱きついて、厚い胸板をポカポカ叩く。
よく考えたら、すごく大胆なことしてるけど、心配してた気持ちや、無事だったことへの安心感、愛しさが止めどなく溢れてきて、抑えがきかないや。
響夜さんはそんな私の背中に手を回して、優しくさすってくれる。
「ごめんな、心配かけて。けど、大丈夫だ。俺はここにいるから」
「うぅ~。よかったぁ、戻ってきてくれて~」
手のひらから、暖かい体温が伝わってくる。
生霊だったときよりずっと暖かい、響夜さんの温度。
今までだって話すことも、触れることもできたけど、やっぱり違う。
本当に目が覚めたんだって、ようやく実感がわいてくる。
すると直也先輩と晴義先輩、それに拓弥くんも、ベッドによってくる。
「本当に、戻ってきたんだな。コイツ、心配かけやがって!」
「人騒がせな総長だよ……なあ響夜、一応確認しとくけど、生霊になって美子さんにとり憑いていたっていうのは……」
「全部本当だよ。お前らにも、心配かけたな」
響夜さんが笑いかけると、2人とも柔らかな顔になる。
そういえばみんなは、私を通してしか響夜さんの声を聞いてないし、姿も見えなかったんだもの。
それがこうして話せたら、安心するよね。
すると拓弥くんが。
「それにしても、まさかこんなタイミングで元の体に戻るなんて」
「その事なんだが……もしかしたら今まで戻れなかったのは、俺の心に問題があったからかもしれない」
「え、どういうことッスか?」
「宗士さんと話してわかったんだ。俺は心のどこかで、七星の総長が勤まるのか疑問を持ってたって。もしかしたら宗士さんが後を継いだ方が、よかったんじゃないかって。だって、事故にあって生霊になるような、ドジをふむ男だぜ」
「そんな……」
いつだって力強い響夜さんの意外なカミングアウトに、拓弥くん達はビックリしてる。
私も、響夜さんが自分が総長であることに、疑問を感じていたことは知ってたけど。まさか体に戻れなかった原因がそれだったなんて。
事故にあったのは、子供を助けたからなのに。
だけど理由はどうあれ、響夜さん自身はそれを、必要以上に気にしてしまっていたのだろう。
でも、今はこうして、戻ってきてますよね?
「響夜さん、体に戻れたということは、迷いは晴れたということでしょうか?」
「ああ……。紫龍の奴らに捕まって、駆けつけてくれたお前らを見て。美子の言葉を聞いて、吹っ切れたよ。自信無いとかグチグチ言うなんて、ダセーことしてらんねー。俺は七星の総長、桐ヶ谷響夜。そう強く思ったら、こうして生き返ることができた」
「そ、そんなの当たり前じゃないですか。七星をまとめられる人なんて、響夜さん以外いませんもの」
けど、もしかしたら総長というのは、私が思っていたよりもずっと大きなものなのかも。
拓弥くんたちは驚いた様子で顔を見合わせていたけど、すぐに3人ともくだけた表情へと変わる。
「なんだ響夜、そんな風に思ってたのかよ。七星をまとめられるのが、お前以外いるかっての!」
「ああ。しっかりしてくれよ、総長」
「そもそも俺、響夜さんがいなかったら七星に入ってませんでしたよ」
3人とも、それぞれ言葉をかけていく。
きっと他の七星の人達も、同じ気持ちだと思う。
それに……。
「響夜さん……実は、アジトを出る前に、宗士さんから伝言を預かっているんです」
「宗士さんが、なんて?」
「騒がせて悪かった。七星を頼むって」
「そっか……」
去っていく宗士さんに、拓弥くん達はなにも言わず、黙って後ろ姿を見ていた。
響夜さんは宗士さんのことを考えているのか、しばらくうつむいて黙っていたけど、やがて顔を上げる。
「ありがとな。お前らの……それに、美子のおかげだ」
「わ、私はなにも」
「そんなことねーよ。美子がいてくれたから、乗り越えられたんだ……ありがとう」
穏やかな顔の響夜さんを見ていると、胸の奥から熱いものが込み上げてくる。
お礼を言うのは、私の方です。
最初は戸惑ったし、怖い思いもしたけど、響夜さんや七星の人達と一緒に過ごした時間は、ずっと1人でいた私にとって、素敵な宝物です。
これから、七星とサヨナラするとしても……。
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