恋がしたいなら、ネタバレ禁止!~自分の幸せを最優先して、すべてぶちまけた悪役令嬢ですけど何か文句あります?~

待鳥園子

第1話「チェンジ希望」

「そうか……それで、君が……その、『乙女ゲーム』というものの、悪役の貴族令嬢だと?」


 私の婚約者ランベルト様は『乙女ゲーム』における私の役割を聞いて、形の良い眉を寄せてから、わかりやすいくらいに非常に驚いた表情になった。


 どんな顔をしても、美麗……仕方ないわ。だって、ランベルト様は、乙女ゲームのメインヒーローだもの。アイドルで言う、ビジュアル担当よ。万人受けする容姿の、性格が良い美男子。


 ランベルト・オルシーニは、今はまだ少年と言える年齢だけど、金髪碧眼で正統派な美形の容姿を持つ、ディルクージュ王国の王太子殿下。


 ついこの前に、前世の記憶を取り戻した私は、自分が乙女ゲームで色々あってから断罪される悪役令嬢イリーナ・アラゴンだと気がついた。


 ランベルト様と婚約をし何も考えずにそのまま悪役令嬢として過ごせば、ヒロインの選ぶ選択肢にとっては、とんでもない未来が待って居る。


 私としては悪役令嬢として生きるなんて絶対に嫌だけど、裕福なアラゴン公爵令嬢の座は捨てたくない。


 面倒な事は出来るだけ避けて省エネで生きて来た前世を持つ私は、一文無しで辺境スタートどんと来いなんて、そんな素晴らしい開拓者精神は持ち合わせていない。


 出来る限り、楽して贅沢したい。だって、せっかく夢の優雅な貴族令嬢に生まれ変わったもの。


 そうなのよ。悪役令嬢イリーナの生家アラゴン公爵家は、ディルクージュ王国で権勢を誇り、娘を王太子の婚約者に据えるように働きかけることなど何の造作もなかった。


 私が顔合わせの段階で王太子の結婚を嫌がってしまうと、それはそれで色々と問題が出てしまう。私だって、父親であるアラゴン公爵を怒らせたくはなかった。


 さすがはゲーム終盤で、ヒロインエリサを追い詰めて殺そうとする超絶悪女となってしまう予定の悪役令嬢イリーナの父親というべきか……姿も立ち振る舞いも、とても恐ろしいし、出来るだけ逆らいたくない。可愛がられてはいるけれど……。


 だから、私はこの顔合わせでの、とっておきの秘策を考えたのだ。


 ランベルト様との顔合わせで彼にこれから起こるすべてをぶちまけて、彼の方から断ってもらい、婚約者になるのを避ければ良いの。


 ここでランベルト様が『イリーナが婚約者なのは嫌だ。チェンジ』と断ってさえくれれば、私は悪役令嬢にはなれない。なりたくない。


 映像付きのゲームなんて、ディルクージュ王国……いいえ。この乙女ゲームの中世風異世界では存在しないものだから、私もどう説明して良いのか迷ってしまったけれど、彼は流石優秀な攻略対象者というべきか、つたない説明でもすんなりと理解してくれたようだ。


「ええ。そうなのですわ。なので、ランベルト様より、この婚約を断って欲しいのです」


「しかし……それは」


「ランベルト様には十六歳になれば、運命の乙女が市井より現れますので、彼女の登場をお待ちになっていただけますと、私もランベルト様も、運命の乙女のエリサ様も幸せになりますので、それが一番かと」


 私は淡々とこの先の起こる展開を説明し、ランベルト様がここで婚約を断ってくれると、主要キャラクターである三人全員にメリットがあるという事を彼に伝えた。


 初対面でのいきなりのぶちまけ話に困惑顔な王太子ランベルト様をなんとか説得して婚約から逃れないと、私は悪役令嬢の立場にならざるを得ないし、例のゲーム強制力とやらが働いてしまうかもしれない。


 生まれ持った身分や境遇を見れば完璧な悪役令嬢に転生したのなら、恩恵だけを頂いて、持っている情報を出来る限り渡し、あとはそちらでどうにかして貰いたい。


 だって、普通に悪役令嬢として生きて、その上で乙女ゲーム内の問題解決するって、出来るだけ楽したい願望のある私には、おそらく無理だと思うもの。


「おいおい。待て待て待て……イリーナ。君は僕の未来の伴侶だって、既に決まっていると言うのか?」


 顔合わせは開始の時には関係者の大人たちもいたけれど、あとはお若いお二人でと言わんばかりに二人になって、ここには私たちしか居ないと言うのに、ランベルト様は声を潜めてそう言った。


 使用人はどんな話を聞いても、聞こえないふりをする。もっとも、こんな話を私たちがしていたと言ったところで、誰も信じられないと思うけれど。


「ええ。そうですわ。ランベルト様は、清楚で可愛らしい外見の女性がお好きなのです。ですので、それとは逆の容姿を持つ私と婚約するよりも、王太子なのに婚約者を決めない変わり者と呼ばれようと、いずれ結ばれる彼女に一途であった方が良いと思いますわ」


 私はそこまで一息で言い切ると、用意されていたお茶をこくりと飲んだ。


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