「第11話」勝利、そして命令

 合図の瞬間、ポニテちゃんの行動は予想どおりの低い姿勢だった。


 (やっぱ、ズボン狙ってくるよな!)


 アポロちゃんとの戦いでもそうだった。

 あの時、こいつはその気になればいつでもアポロちゃんを場外に追いやって勝つことが出来たはずだ。なのにそれをせず、頑なにズボンを脱がそうと必死だったのだ。


 そこからでてくる結論は一つ。

 こいつが、アポロちゃんと似て非なるバーサーカーだということだ。

 

 確かにこいつは血の気も多いし女子とは思えないほどのパワーを持っている。加えて狂戦士の名に相応しい闘争心も……だが、だがこいつには決定的な違いがある。


 そう! こいつは決して卑怯ではないのだ!

 思春期の男子の複雑な心境を利用して自分の胸をムニュらせて勝つとか、そういう姑息かつ最低な手段は使わず、正々堂々真っ向勝負を挑んでくる勝負師なのだ!!!


 (だからこそそれは、隙になる……!)


 どうにかして突進を右に避ける。するとポニテちゃんは枠線ギリギリで踏みとどまり、再びこちらを向いて突撃の準備をしている。


 (次で決める)


 俺の勝利条件は至ってシンプルだ。

 この戦いにおいて敗北せずに勝利すること、自分がズボンを脱がされ羞恥を晒さず……また、自分もこの誇り高き少女のズボンを脱がすという馬鹿げたことを絶対にしないということだ。


 如何にアポロちゃんの命令であろうと、俺は女子の服を剥ぎ取るなんていうクソみたいなことは絶対にしない。かと言って負けることも引き分けも既に許されない……となれば、場外押し出しによる勝利しか道は残されていない。


 「ちょこまかと逃げやがって……死ねやぁ!」

 (相手の力を利用する!!!)


 向かってくるポニテちゃんをスラリと避け、そしてがら空きの背中に向かって……タックル!!!


 「のわっ! あっ、あっ……ああ、くそっ!」

 「っしゃぁ!」


 勝った、押し出せた!

 俺は誰も傷つけず、女子に対して最低限の実力行使しかせず……その上で主人の、自分の好きな人に対して最大の働きをすることが出来た!


 (……頑張ったんだ。ちょっとぐらいご褒美を催促しても……)


 ちらっ、と。ちょっとだけ露骨にアポロちゃんの方を見る。──そこには、湯悦に浸っているアポロちゃんの笑顔があった。


 「よくやったあんコペ! 褒めて遣わす!」

 「ははーっ!」

 

 勝利に酔いながらいつも通りにふざけあい、俺は嬉しかった。

 だが。


 「──じゃあ、ズボン剥ぎ取ろうぜ」


 とどめを刺せ、と。

 そう、命令された気がした。


 

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