第11話 みんなは寄附金控除って知ってる?


「すいませ~ん!! 」。


ハリガネは慌てた様子でオーナーの下にやってきた。


「馬鹿野郎ッッ!! この緊急事態に何してんだぁッッ!? あぁんッッ!? 」。


平謝りを繰り返すハリガネに対し、オーナーは強面の顔を一気に近づけて凄んだ。


「す、すいませんっっ!! え、えと...。通行人の避難誘導ですよね? 」。


「バァカッッ!! 違ぇよッッ!! お前も王国の兵士と混ざって王国の防衛に参加すんだよッッ!! お前傭兵だろッッ!? だったら王国の治安保全に努めんとなぁッッ!? 」。


「い、いや...。で、でも今は王国の組織部隊って結構充実してるんで、変に動かない方が...」。


「馬鹿野郎ぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!! お前傭兵ってことは戦士だろぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!?!? 戦士が国の一大事に立ち向かわねぇでどうすんだぁぁぁぁあああああああああああああああッッッ!?!? オラァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!! 」。


オーナーは再び凄まじい剣幕をハリガネに向けてまくし立てた。


「うーん、それもそうですけど...。ちょっと準備が...」。


「チッ...! これだから剣士の奴ぁ...。おいッ! 奥の方に武器があるからそいつ使えッッ!! これも仕事だぁッッ!! いいなぁッッ!? 」。


オーナーは両腕を組み、街路を駆けていく王国兵士の集団を眺めながらハリガネに出動するよう促した。


「あの、オーナー」。


「...あ? 」。


ハリガネは再び“黒い笑み”を浮かべてゆっくりと口を開いた。


「...その分のギャラも、後で請求しますからね? 」。


「おうッッ!! 心配するなッッ!! 」。


「ありがとうございま~す! 」。


ハリガネはオーナーにそう言い残すと、ボーイに導かれながら足早に店の奥へと退いていった。


「よしっ!! 俺もこうしちゃいられないなっ!! 」。


状況を察したミドルは嬉々とした表情を浮かべ、ハリガネの剣を抱えたまま外を出て何処かへ走り去っていった。


「あの...。オーナー...」。


店の前を警戒している用心棒の一人が困惑した表情でオーナーに話しかけた。


「あ? 何だぁ? 」。


「あの傭兵のチビ一人だけでいいんですかい? 」。


「...どういう事だぁ~? 」。


「いや、俺達も戦争参加経験があるんで向かった方がいいんじゃないかと...」。


用心棒の言葉を聞いたオーナーはフンッと鼻を鳴らして微笑を浮かべた。


「馬鹿か、お前。こういう時は、店が王国に協力しているっていう姿勢を見せるだけで効果的なんだよ。だから、あのチビ一人だけで十分なんだよ。アイツはどうせ日雇いだし、正直どうなってもいいわ」。


「...と、言いますと? 」。


「経営ってのは、こういう社会貢献も必要なわけよ。『王国のために戦いたいと思っている傭兵出身の従業員がいますッッ!! 従業員の意見も尊重しつつ店は心無い酔っ払いのせいで滅茶苦茶になりましたが、王国を護る従業員に当店は全力でバックアップッッ!! 保障手当も全力サポートッッ!! “PUBオニヤンマ=キャロルズ”は王国の有事においても良心的な姿勢で全力協力ッッ!! 最強な従業員達が常時配置されているので、お客様は安心して一夜を楽しめますッッ!! 踊り子や女性スタッフはオーディションを経て選抜された王国内においてトップクラスの美女ばかりッッ!! 満足する事、間違いなしッッ!! 求人も常時募集中ッッ!! 未経験者や業界経験者大歓迎ッッ!! みんな明るくアットホームな職場で先輩達が優しく一から丁寧に指導しますッッ!! 』ってな感じでイメージアップがてら宣伝もメディアに欠かさない。お前もこれからそういうマーケティングを学んでいくんだから、ちゃんと覚えておけよ? あとは寄附金...」。


「ふぅ~ん、そいつは参考になるなぁ~。あと、お店を滅茶苦茶にしちゃってごめ~んねぇ~」。


両手を広げて誇らしげに長々と語るオーナーの背後からジューンが話しかけてきた。


「なぁっ...!? 」。


オーナーはジューンに気づくと、飛び退く様に後ずさりした。


「お、お前まだ居たのかっっ!! 早く出てけっっ!! 」。


「出たくても出られないよ~。こんな状況だしぃ~」。


「オメーは自分の魔法で何とかなるだろうが...ってか、他の奴等はどこ行ったッッ!? おいッッ!! セキュリティィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッ!!! 」。


狼狽するオーナーは慌てて店内を見回すも、その場にいたはずの用心棒達の姿がなかった。


「ああ、みんな現場に行くよう言っといたよ~。一大事だしねぇ~」。


「テメェェェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッッッ!!! 何してくれてんだぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああッッッ!?!? つーか、何でテメーが指図してんだよぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?!? 」。


ジューンに激高するオーナーは再び顔を真っ赤にして、そうまくし立て始めた。


「四の五の言ってられないよぉ~。緊急事態なんだからぁ~。あ、貴方達は店の前で避難対応よろしくねぇ~ん。僕はレディー達のメンタルケアしてくるから、その場を離れちゃダメだよ~! バイバ~イ!! 」。


ジューンはオーナー達にそう言い残し、颯爽と店の中へ消えていった。


「...ッッッ!!! 」。


「...」。


怒りで震えるオーナーと、呆然とする用心棒の一人を残して...。


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