第十一話 家庭訪問阻止作戦!
夕方四時頃、仕事が終わって帰路に着いたところだった。
「どうしよう…。」
ルゥは悩んでいた。
机に座り、初夏の空にグングンと広がる積乱雲を見上げ、物思いに耽りながら頬杖をつく。
「どうしたんだよ。らしくないな。」
聞くか迷ったが、聞いて欲しそうにチラチラこっちの様子を窺っていたので、聞いてみる。
「もうすぐ先生が家に来るの…。」
「家庭訪問?」
「うん…。」
家庭訪問は僕もかなり困ったなあ…。
今の子供達も、やはり先生が家に来る事はかなり困るものなのか…。
とか思っている時、ある事に気づく。
「ちょっと待って。ルゥ、親いるの?この世界に。」
「考えた事なくて…、産まれた頃からプリオリティさんとかニア姉とか親衛隊のみんなに育てられたから…、私の親はこっちの世界にまだ来てないのかも…。」
ルゥは産まれた頃からここにいると言う。
それはつまり、産まれる前に死んでここへ生まれ落ちてしまったということになる。
母親のお腹の中で亡くなってしまったのだろうか。
僕はそれ以上詮索はせず、ある提案を出した。
「僕が親代わりとして、話聞いてあげようか?」
「嫌だよ!そもそも先生がワタシの部屋に入ってくるのが嫌なの!」
確かに…。
この部屋は玄関から端まで全てルゥの部屋のようなものだ。
先生が部屋に入ってくるのが嫌ということは、玄関だろうと嫌ということなのだろう。
「ヘキザさんに招集してもらお!」
「え…、何について?」
「家庭訪問阻止作戦!」
ドン!
「そんな理由で俺をここに連れてきたのか!?」
早速、予想できた光景が目の前に広がる。
招集をかけられた親衛隊の面々が、二日連続で最上階の作戦室に並んだ。
顔を真っ赤にして机を叩くタオさんは立ち上がり、作戦室を出ようとする。
「タオ。俺の招集ルールは覚えているか?」
ヘキザさんは真剣な表情の圧を放ち、タオさんの足を止めた。
「あんたの悪ノリにそろそろ付き合いきれなくなってきた。」
「まあまあ…。うちも家庭訪問嫌だったし、気持ちわかるよ!何か案考えてあげようよ!」
メロちゃんがフォローに回る。
「そうだぞ。お前も経験しただろ。特にお前なんか悪ガキで問題児そうだから、さぞ嫌だったはずだ。」
ヘキザさんは灰皿を用意し、タバコを一服しながらタオさんを諭す。
「俺から出せる案は一つ、こいつが現実から目を背けず、目の前の問題を解決する姿勢と覚悟を持つ。どうだ?」
………。
一同が静まり返る。
反論のしようがない、大論破だ。
「タオ先輩はどうだったんですか?」
ルゥは上目遣いでタオさんに訊いた。
「絶対家に来れないように、道路にぬいぐるみ並べて封鎖してたな。」
「やっぱり嫌だったんじゃん!」
「めっちゃ妨害してんじゃねーか!!」
メロちゃんとヘキザさんが口を揃えて同時にツッコんだ。
「その先生、スケベなの。」
「は?」
ルゥが、とんでもない爆弾発言を投げ込んだ。
「スケベだと?」
ヘキザさんも思わず机から身を乗り出す。
「いつもワタシの頭を嗅いだり、手を握ったりしてくるの。でも先生男の人だし、何も言えなくて…、そんな人が、ワタシ一人の部屋に入られたら…。」
「なんてこと…。」
スィーさんが口を抑え、
「許せない!」
メロちゃんが立ち上がり、
「極刑確定だな。」
静かにしていたプリオリティさんが、吸っていたタバコを灰皿にもみ消し、一言呟いた。
ダンッ!!
「全員!今すぐ家庭訪問阻止作戦を決行するぞ!!」
「「「了解!!」」」
ヘキザさんの命令に合わせて、全員が敬礼し、次々と会議室を後にする。
「わわわ!ちょっと!!」
僕はみんなの行動に付いていけず、会議室に取り残された。
「にひひ。」
ルゥは机に座ったまま、一人でクスクス笑い始めた。
「ルゥ。今のってまさか…。」
「嘘に決まってるじゃーん。」
「先生殺されちゃうよっ!!」
「流石にみんなそんなバカじゃないよ。だってワタシ達、この世界の治安を守る第一線に立つメブ親衛隊の隊長だよ?ワタシにはどうにもできないけど、親衛隊のみんなならきっと、平和的、論理的に賢く家庭訪問を中止にする得策を考えてくれてるよ!」
ルゥは胸を張ってそうは言うが、僕には嫌な予感しかしない。
我が子を愛するあまり。という行動がいかに恐ろしいか…。
それをまだ小さいルゥにはわかっていない…。
僕はルゥを連れて、急いでマンションを降り、外に出た。
マンションを出た先に広がる光景に、僕は絶句した。
「…、やば…。」
道路には、五十体以上の様々なサイズの可愛いぬいぐるみ達が、まるで寮を守るように道路に並べられた。
「ほら言わんこっちゃない!!」
おかげで、物理的に道路は封鎖の状態になった。
「よし。これで解決だ。」
「バカすぎたああああーーーーー!!」
「これでそのスケベ先公も、ここまで車で来れないってわけよ。」
「大都市圏の道路封鎖しちゃってるんだよ!?」
「こんな事になったのはお前のロリコン癖のせいだ。って俺がビシッて言っといてやるよ。おい、シャパメロとプリオリティ。新聞記者に、スクープ記者、マスコミ全部呼べ。」
「「あいあいさー。」」
やばいやばい。
取り返しのつかないところに光の速さで来ている!
この人達を敵に回したら、冗談だろうと勝てない!
「これってなんの騒ぎ…?」
僕とルゥが慌てふためいている隣で、自転車に乗った一人の若い女性が、道路を見て驚いていた。
「うわっ!先生!!」
「ルゥダさん…。ここ、あなたのお家の前よね?何があったの?」
ルゥに先生と呼ばれた女性は、心配そうにルゥを見て、優しく声をかけた。
僕はその光景の違和感に気付き、唖然とした。
あろうことか、ルゥの担任の家庭訪問の交通手段は、車ではなく、自転車であり、ロリコン癖の男性とはかけ離れた優しそうな若い女性だった。
「お、女ぁぁーーー!!?」
いつから僕達は、先生が家庭訪問に車に乗ってくると錯覚していたんだろうか…。
結局、僕を含めた全親衛隊隊長が親代わりにルゥの家庭訪問を受けた。
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