第十話 連続怪奇爆発事件。
初夏の気怠い午後。
親衛隊寮、最上階にて全隊長がヘキザさんの招集で集められた。
一番広いリビングは、大きい窓を全て遮光カーテンで閉じられており、中央には長いダイニングテーブルに七席椅子があり、テーブルに置かれていたプロジェクターがスクリーンを照らしている。
「実は昨日から違う場所で六件も起きている。」
ヘキザさんはテーブルの真ん中に僕が置いた差し入れのあずーるおにぎりを手に取り、前に出て、連続怪奇爆発事件の現状把握している全てを報告し始める。
「爆発が起きて、その場に横たわっている死体は決まって二人。そして男性と女性だ。女性同士のパターンでもなく、男性同士もパターンもなく、決まって男性と女性。携帯に仕込まれた爆発テロだとも考えたが、携帯に爆弾を仕込まれた形跡も、爆発した跡もない。ましてや付近に爆発物の破片も痕跡も見つかっていないらしい。」
「紫傘五人衆の仕業かもな。」
テーブルに組んだ両足をドッシリ乗せ、差し入れのあずーるおにぎりには目もくれず、持参したスナックを食べながらタオさんがその言葉を言った途端、全員の顔つきが変わる。
「紫傘五人衆って…?」
僕は質問をぶつけた。
「紫傘五人衆ってのは、当時まだ親衛隊の規模が大きかった時期の七番隊から十一番隊までの隊長によってできた組織だ。メブが統括するモモバースの社会形式そのものに反する反社会組織みたいなもんだな。」
「仲間割れ…みたいな感じですか?」
「そうだな。思想はそれぞれ違う。人間、死んだところで思想がある限り、争いは無くならないって事だ。」
「どうすんの?」
タオさんは他人事のように質問する。
「今回発生した連続怪奇爆発事件六件の内、セツリとルゥダが遭遇した事件含め二件が昼間、十二時から十四時の間、四件が夜、十八時から二十時に発生している事、そして死亡した十二人の被害者の年齢は、十代後半から四十代前半と幅広い層が被害にあっている事、その現場が人通りの多い場所という事がわかった。」
「飯時…?」
「飯時ですね…。」
飯時に発生している事と、爆発に巻き込まれるのは男性と女性の二人のパターン。
そして年齢層はかなり幅広いが、高齢者はいない。
事件の現場は人通りの多い場所で発生している。
わかった事はこの四つの法則のみだった。
「いや、わっかんねぇよ…。」
「あ!わかった!!」
メロちゃんは僕らを見て、早押しクイズに答える人のように俊敏に手を挙げた。
「カップルが合流しようとして、飯を食いに行く時に爆発だ!!」
「バカ。どうしてそれで爆発するんだよ。」
タオさんがメロちゃんにツッコミをかます。
意外と会議中、積極的に質問とツッコミを加える人なんだな…。
と思っていると、メロちゃんが口を開く。
「きっとリア充がとんでもなく嫌いなんだよ!」
この予想がもし当たってたとしたら、なんてはた迷惑な犯人なんだ…。
「可能性はあるな。」
「あるの!?」
「俺もリア充には爆発して欲しいからな。」
世界の治安を守る最前線の隊長であるヘキザさんが、とんでもない爆弾発言を漏らしたところで、
「犠牲者が出る可能性があるけど、人通りの多い場所に待機してカップルを観察するというのはどう?」
静かにしていたスィーさんが急に口を開いた。
「やはり、そうするしかないのか…。」
「有名な待ち合わせ場所とかで張ってみるか。」
そして会議は、まるで畑にイノシシがよく現れるからどう対処しようか?みたいなラフな感じに終わってしまった。
この世界の最前線で治安を守る、いわば生きていた世界でいうところの自衛隊のようなチームなのに、なんだかこの世界をチェスで動かしているような気分になる会議だった。
この違和感は恐らく、この親衛隊の年齢の違和感から来ていると思う。
自衛隊なら二十代から五十代以上と位が上がれば上がる程、幅広い年齢層が隊長や高い位に就いているはずだが、モモバースでは一桁の年齢から、三十代前半くらいまでの間の隊長しかいない。
まだ入隊事件も受けれていない、訓練兵のような僕が言うのも何だが、正直頼りない。
大学の講義を受けてみたのはいいが、「なんじゃこりゃ。」と最後に思う感覚と似ている。
難しい話をしているようで、的を射ていないような。
僕も積極的にもっと話に入っていけばよかったな。と後で後悔した。
とりあえず今回の会議の結論としては、まだ事件のきっかけがわからないから、犠牲者が出るのを承知で明日から飯時に、各人有名な待ち合わせ場所で張ろうという事で落ち着いた。
解散して、時刻は午後二時。
まだ働けると思った僕は、急いであずーるへ向かった。
「メロちゃん、もういいの?学校は?」
「今行っても六時間目の途中くらいだし、親衛隊の招集行ってきますって行ってるから大丈夫だよ。」
スマホをカタカタいじりながら歩くメロちゃんとルゥは僕の隣を歩いて、あずーるまで向かう。
メロちゃんの言い分、それはつまり、こじつけたサボりである。
あずーるのドアを開けると、メロちゃんが「あ!」と声を出した。
「ウレカちゃん!ペシルちゃん!!」
メロちゃんはテーブルに座る女子高生の二人組に対して、そう呼んだ。
一人は長い茶髪にルーズソックスを履いて、胸につけたリボンを少し下げた、平成初期頃のコギャルのような女の子と、重めの前下がりボブの黒髪の女の子が、呼ばれたのに気づき、手を挙げた。
「メロー。ルリアさんと話してたのー。混ざるー?」
「うん!混ざるー。」
メロちゃんはそのテーブルの空き席に座り、談話し始める。
どうやら、高校の友達らしい。
ていうか、みんなサボりって事だよな…。
僕は影を薄くし、手を洗い、厨房へと入った。
「あれ?誰それ彼氏ー?」
ビクッと体が反応してしまう。
僕の事を言っているのだろうか…。
「違うよ!親衛隊の人だよ。」
「親衛隊にあんな人いたっけ?」
「新しい人だよ。」
「ふーん。いくつ?」
「二十六って言ってたかな。」
「二十六!?つか男じゃん!女だと思った!」
「なんで!!?」
「女っぽい顔つきだし、童顔じゃん。うちと同いか、せめて大学生くらいかと思った!」
「それなー!」
「むぅ。セツ兄をいじめないでください!」
「キャ!やっぱルゥダちゃん可愛いーーー!!」
ほっぺをむにむにと触られ、膨れながら小動物扱いされるルゥ。
僕の背に、そんな話題がチクチクと刺さる。
どの世界でも最強なのは、やはり集まった女子高生なのか…。
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